『ローグ・ワン』ダース・ベイダーのマスクの下に見る顔

先日、『スターウォーズ エピソード3:シスの復讐』を見ました。

なんだかんだで一番見ているスターウォーズかもしれないのですが、その時はなぜかアナキンの方に感情移入をしてみることができたのです。

 

去年2016年末に公開された『ローグ・ワン』、『エピソード4』の10分前までを描くスターウォーズで初のスピンオフ映画。それは帝国の絶対支配に対して立ち上がった人間たちのドラマでした。その拡張された世界観やキャラクター達、涙なしには見られないラストに魅了され、3回以上は劇場に足を運んでしまいました。その中でとびきりの存在感を放ち、サーガ本編からの登場となったシスの暗黒卿ダース・ベイダー

その漆黒の巨体、マスクのあの不気味な呼吸音、『エピソード4』公開から約40年がたってもなお健在のジェームズ・アール・ジョーンズが演じたマスクの合成音のイイ声、ファンは全員興奮に身を震わせたことでしょう。

ベイダーはかつては若きジェダイアナキン・スカイウォーカーでした。

(彼の生涯に関しては、↓の素晴らしいわかりやすい記事をご参照ください)

しかし、ベイダーを描くエピソード4-6(俗にいうクラシック・トリロジー)はアナキン・スカイウォーカーを描くエピソード1-3(プリクエル・トリロジー)よりも前に製作されました。

敢えて言うなら映像的には後付けであり、プリクエルトリロジーを見た後にオリジナル・トリロジーのベイダーにかつてのアナキンの面影が重ねて見るかどうかは、観客の想像力にかかっていたのですね。

しかしローグ・ワン含めて、ディズニーがカノン(正史)として新たに作り出したスピンオフのベイダーはプリクエルの後に製作されただけに、設定上も映像的にもスムーズにアナキンとベイダーをつなげてくれます。(小説『ロードオブシス』、アニメ『反乱者たち』、そして『ローグワン』など)

よってスクリーンの彼の黒いアーマーに、かつての自分の弟子アソーカや惑星ロザルの反乱者たちと刃を交えた事実を重ねて鑑賞するのが容易になりました。

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思い返してみると、『ローグ・ワン』に登場したベイダーはプリクエルを踏まえたうえでの描写がなされていたと思います。

プリクエルのアナキンの「裏返し」の描写により、本作のベイダーは形作られていたと思うのです。

僕が「あ……アナキンだ」と感じた点は以下の通りです。

  • 自宅がムスタファーにある
  • マスクを外した顔がヘイデン顔
  • やたら威圧的な態度
  • 見事なライトセーバー裁き

 

1.自宅がムスタファーにある

『エピソード3』にてオビ=ワンとの決戦に敗れた暗黒面に堕ちたアナキンは、四肢を失い溶岩の火が燃え移って全身大やけどという凄惨な目に遭いました。よってムスタファーとは、最愛の妻だったパドメと結婚式を挙げた惑星ナブーや、母を失ったタトゥイーン以上につらい記憶を呼び起こす忌まわしい土地であるはずです。しかしなぜそんな場所に自分の安住の地ともいえる自宅を建てたのか。

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これはフォースのダークサイドの特性と考えられます。『エピソード3』から5年後を描くカノンの小説『ロード・オブ・シス』でベイダーは「痛みは怒りに・怒りは力につながる」と考えています。ムスタファーは怒りや憎しみ、そして痛みを呼び起こす場所なので、彼はそこでバクタ・タンクに浸かって肉体の回復をしつつ、力を「研いでいる」ようです。(僕にはとても想像できないシスのストイックな道です……)

 

また、『反乱者たち』シーズン1にもムスタファーは登場しています。

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その際、登場人物たちから「『ジェダイにとって死の星』という噂が流れている」ことがわかります。ただこれは考えてみると違和感があり、ここでひどい目に遭ったアナキンは厳密にはジェダイでなく、オビ=ワンは無事に生還しているので、ジェダイは誰一人として死んでいないのです。しかしルーカスフィルムトーリーグループのパブロ・ヒダルゴ氏によれば、『反乱者たち』シーズン1の時点で、ムスタファーにはベイダーの自宅があったということです。また、小説版『ローグ・ワン』には召使のVaneéがクレニック長官に対し「たった数人しかここを訪れることはない」と言う記述があります。実際に生き残ったジェダイをここに連れてきて拷問したのかも……?

『エピソード3』だけでなく『反乱者たち』も含めた粋な設定でした。

 

2.マスクを外した顔がヘイデン顔

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召使のVaneéが"My lord, Director Krennic has arrived"「わが君、クレニック長官がご到着なさいました」と知らせ、(字幕ではストレートに「ベイダー卿」となっていましたが)多くの観客が「おっ?!」となるとタンクから肉体の半分を失ったアナキンが姿を現しました。

ただし、残念ながら濃いスモークでよく見えなかったのではないかと思います(配給が20世紀フォックスからディズニーに変わったからでしょうか?)なお、アナキンの肉体は公開前にリリースされたメイキング映像なら少しは良く視認できると思います。

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これを見ると、呼吸装置を装着したアナキンの顔がプリクエルでアナキンを演じたヘイデン・クリステンセン寄りの顔に見えませんか?『ローグ・ワン』だけでなく『エピソード4』のベイダーのマスクの下に、ヘイデン顔があるのだと思うと少し嬉しいです。

 

3.やたら威圧的な態度

クレニックとの会話シーンや、オリジナル・トリロジーからもよくわかると思いますが、ベイダーは自分より下の人間に喋るときによく指を指したり威圧的な口調を使っています。

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これに関しては、彼が常に怒りを抱えているのが原因でしょうが、その怒りの感情の更に奥に隠されているものとは何でしょうか?

僕はプリクエル・トリロジーで描かれた境遇ゆえではないかと解釈しました。『エピソード1』では生まれた時から奴隷としての立場に縛られ、『エピソード2』ではことあるごとにマスターのオビ・ワンから事あるごとにMy young padawan「若きパダワンよ」とたしなめられ、『エピソード3』ではズバ抜けた能力をジェダイ・オーダーに正当に評価してもらえていません。僕が本記事冒頭に書いたのはこの点です。ずっとそんな抑圧された環境下におかれたからこそ、彼は暗黒面に堕ちて自分の力を存分に振るい、自分より下の人間に対して威圧的な態度をとるのではないか、ということです。

 

4.見事なライトセーバー裁き

伝説となるであろうラスト5分!

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『エピソード4』からは想像できないような、滑らかな剣(セーバー?)さばきにより、残酷に反乱軍トルーパーを一人、また一人と残忍に殺していく彼はまさしくシスの暗黒卿としての絶対的な力を見せつけてくれました。この静と動が組み合わさったような動きは『エピソード3』ムスタファーの決戦のダイナミックかつ滑らかな動きを連想させました。それでも少しぎこちない・満足に動けない感じが、ベイダーの義手義足という設定も忠実に反映していたと思います。ただ、これだと『エピソード4』のオビ=ワンとの決闘の動きはどうなるの?という疑問に関してですが、これに関しては2人の強大なフォースが干渉しあってムスタファーの決戦のようにはならなかったという答えが公式が出しています。

 

描写の裏を探ると、これだけ一致する設定が見つかるだけに、設定が丁寧に練られ・組み合わされていることがわかります。

以上、『ローグ・ワン』のベイダーに思う事をまとめた考察でした。