世界よ、これがアフリカだ『ブラック・パンサー(原題)』考察
ブラック・パンサーは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』にてデビューを果たしたアフリカの小国の戦士。その名の通りクロヒョウをモチーフにした黒いスーツをまとい、超人的な身体能力と高潔さで自国を守る王でもあるのです。
先日、待望の『ブラック・パンサー(原題)』のティーザー予告がマーベル・スタジオ公式より解禁されました。MCUの新顔であり、これまでMCUにいなかったアフリカ出身のヒーローの単独作ということで、言うまでもなくファンの期待を集める一本です。
マーベル・スタジオが2018年5月に用意する超大作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(原題)』に向け、『シビル・ウォー』から始まったMCUの「フェイズ3」は『ドクター・ストレンジ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/リミックス』『スパイダーマン/ホームカミング』『マイティ・ソー/バトルロイヤル』ときて、最後のピースがついにそろいました。ということで、今回は『ブラック・パンサー』の記事となります。
______本記事のタイトルは元々「Where is Cap now?『ブラック・パンサー(原題)』考察」と、『シビル・ウォー』ラストで表舞台から姿を消したキャプテン・アメリカ、そして相棒のバッキーの足跡をたどることが当初のテーマでした。しかしいざ書こうとなると、どうしてもわずかな情報による記事ではいかんせん内容が少なくなってしまいました(´・ω・`)
そんなわけで、今回はブラック・パンサーというヒーローの解説、彼がたどってきた軌跡、予告編の分析、そしてキャップ&バッキーのコンビの行方という内容で行こうと思いますね。
ブラック・パンサーって誰?
と、ブラック・パンサーの説明の前に彼の故郷である国を説明する必要があります。
アフリカ大陸に位置する小国ワカンダ。長らく鎖国体制を敷いてきた国であり、表向きは「発展途上国・工業や衣料が主産業」の国です(CIA職員のエヴェレット・ロスの発言より)。
しかしその実態は、独自の文化と高度な科学技術を併せ持つアフリカの秘境でした。恐らくその科学技術はMCUの主な舞台となるアメリカ以上。
また、ワカンダは地球一頑丈な希少金属ヴィブラニウムの産地でもあります。かつてアイアンマンの父であるハワード・スタークがワカンダから入手したヴィブラニウムで、キャプテン・アメリカの盾を作ったりしました。
ヴィブラニウムの産地ということで、ほぼ破壊不可能≒変形不能という代物であるヴィブラニウムの性質を、ワカンダの人々は隅々まで知り尽くしていました。彼らはヴィブラニウムを自由自在に加工することができるのです。現実では衣服が化学繊維や炭素繊維でできているように、ワカンダの人間はヴィブラニウムを「織り合わせ」特殊スーツも製作しています。
ワカンダは代々王政を敷いている国です。王は代々その地位が受け継がれます。そして王は、その特殊スーツを身にまとい、自らの国をその手で守るのです。ブラック・パンサーとはワカンダの王であり、国を守ってくれる英雄というわけですね。
スーツは国の象徴であるクロヒョウをモチーフにし、武器は鋭いツメ位。また、装着者である王は(原作コミックでは)ハート・シェイプド・ハーブという特殊な植物を摂取することにより、超人的な筋力・瞬発力・持久力・耐久性といった身体能力を得ます。戦闘スタイルは独特のマーシャル・アーツ。王としての高潔さも持つことから、ブラック・パンサーとはワカンダを代表する一人の「戦士」でもあるのです。
ちなみに、『アイアンマン2』で示唆されましたが、このワカンダの超人戦士の存在は、当時アベンジャーズ計画を進めていたS.H.I.E.L.Dに2010年時点で知られていたようです。
さて、今度はティ・チャラという王子の軌跡をたどりましょう。
ティ・チャラという男
ワカンダの王家に生まれたティ・チャラは、次代のブラック・パンサー(=王)の座を継ぐために幼少期から鍛えられてきました。そして2016年5月8日、ティ・チャラはウィーンのソコヴィア協定調印会議に父であり国王のティ・チャカと共に出席。ナイジェリアのラゴスで起こった事件により、アベンジャーズを国連の管理下に置く協定には賛成なものの、「少数で物事を決めるべき」という考えに反することをほのめかしています。しかしその後爆破テロによって父を失い、彼は非常事態ながらもブラック・パンサーを「継承」。復讐心にかられた彼は、爆破テロの容疑者で元ヒドラの暗殺者であるウィンター・ソルジャーことバッキー・バーンズを独自に追跡します。
この「復讐者」としての立場は、ソコヴィア協定をめぐって起こったアベンジャーズの分裂において特異な第三者となります。協定反対派のチーム・キャプテン・アメリカと、協定賛成派のチーム・アイアンマン。チーム・アイアンマンは容疑者のバッキーを国連の名のもとに公的に追跡しているので、ティ・チャラはアイアンマン側に着くことになります。
ドイツの空港でアベンジャーズの真っ向からの対決に参加したりしつつ、キャプテン・アメリカとバッキーがいるシベリアへ向かったアイアンマンを個人用ジェット機で追跡。バッキーを殺すチャンスを今か今かと(文字通り)虎視眈々と物陰に狙って待っていましたが。彼はアベンジャーズの分裂の真相を知ることとなります。2015年に起こったソコヴィア事件、その被害によって家族を失った一人の父親が、やり場の無い怒りと復讐心を抱えて策略を巡らせた結果がこのアベンジャーズの分裂だったのです。
このソコヴィア協定の騒動に明確な悪はおらず、言うなれば全員被害者である事。自分が誤って罪のない人間を殺すところだったこと。復讐の鬼と化した男の姿を見て、ティ・チャラは全てを理解し、その男を殺すことなく生かして連れて帰るのでした。
ティ・チャラもまた、突然理由もなく敬愛していた父を奪われ、やり場のなり怒りと復讐心を抱えていましたが、彼はそれを鎮めるという英断を下したのです。これこそ、ワカンダの王を継ぐにふさわしい寛大さと聡明さを持つ男の姿ではないでしょうか。
また、未だにテロ組織ヒドラの元暗殺者として指名手配されているバッキーを、ティ・チャラは放置することなく自国でかくまうことにしたのです。「追手が来るぞ」と忠告するキャプテンに対して、「来させれば良い」という不敵な態度をとります。
父を殺した犯人として追っかけまわしてきたことにより、多少のわだかまりや躊躇があっていいものの、リスクをとってまでわざわざバッキーを引き取る器の大きさ。まさに王を継ぐものとして(ry
……と、ここまでが現在明らかになっている、ブラック・パンサーことティ・チャラの足跡です。その彼を待ち受ける新しい試練、待望の続きを描くのが『ブラック・パンサー』なのですね。その『ブラック・パンサー』のティーザー予告分析もちゃちゃっとやってしまおうと思います。
ティーザー予告映像分析
「ワカンダについて、何を知っている?」というセリフから始まる映像。
『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で登場した不敵な武器商人ユリシーズ・クロウが、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に登場したCIA職員エヴェレット・ロスに尋問を受けています。なぜかここは韓国らしいですが……
クロウは原作コミックでブラック・パンサー絡みのヴィランなので再登場を期待されていました。大胆にもワカンダから大量のヴィブラニウムを盗み出し(一度捕まって「盗人」というメチャメチャ痛い焼き印を押される)、ウルトロンに理不尽な理由で左腕を切断されました。コミック通りの展開ならトンデモギミックを内蔵した義手をつけてほしいところ。
ヴィブラニウムの強奪に侵入した際、ワカンダの「真の姿」を見たという彼はブラック・パンサーの攻撃を受けた唯一の生存者のようです。国を守るため、闇に潜んで容赦なく敵を狩る姿は、まさにクロヒョウそのものですね。
王位継承を巡って課される試練でしょうか?ティ・チャラと今回のヴィランとなるエリック・キルモンガーが戦っています。ティ・チャラの王位を狙って暗躍するキルモンガーがヴィランなのですね。
また、今作でヴィランはもう一人います。マン・エイプというキャラクターで、原作コミックではホワイトゴリラ教の復活をもくろみ、神秘の白サルのスーパー・パワーを持ったキャラクターだそうです。
他にも何枚か気になるカット。
↑『シビル・ウォー』にも登場していましたが、ティ・チャラのボディ・ガードの女性ですね。ブラック・ウィドウに「どきなさい」と強気な態度をとったあの人です。
↑この男性の口の強烈な装飾、エチオピアに住む少数民族のムルシ族と思われます。ワカンダにムルシ族がいるとは少々意外ですが、どういう背景なのでしょうか。
ウィーンの爆破テロで急逝した父を継ぎ、ワカンダを治める王となったティ・チャラ。長らく鎖国していた国を開き、外交や内政をうまく行っていけるのか。現実でも王としての能力が問われます。
『シビル・ウォー』よりスーツのデザインが変わっています!作品毎にヒーローのスーツが変わっていくのも楽しみの一つですが、具体的にはどんなアップグレードが施されたりしたのでしょうか?個人的には今回の新しいスーツも好みです。
更なる詳しい分析はコチラ↓の記事をご覧ください。
映像中では確認できない、監督などによる重要な情報やキャラクターたちの詳しい解説が載っていますよ~
さてさて……ようやくです。
キャプテン・アメリカは今どこに?
シベリアでバッキーを守るため、アイアンマンとの死闘の末に何とかその場は勝利したキャプテン。バッキーをワカンダに預け、ティ・チャラと短い言葉を交わします。その後、海上のラフト刑務所に単身殴り込みをかけ、仲間たちを救出します。(このシチュエーションが『キャテプン・アメリカ/ファースト・アベンジャー』にて、ヒドラにつかまった仲間を助けるのと同じなんですよね)
個人的にはキャプテンに『ブラック・パンサー』に出演してもらいたいのです。アベンジャーズ分裂をはじめとして対立せざるを得ない状況下におかれたものの、彼らはどことなく似ているのです。国の象徴そのものである事(スーツがそれを体現している)・肉弾戦主体の超人・ヴィブラニウム製の装備を持つ・高潔な精神の持ち主 といったところでしょうか。
しかし、おそらくそれは実現しないものと思われます。
まず、キャプテン・アメリカを演じるクリス・エヴァンスの出演作品の契約数です。彼はマーベル・スタジオと「6本の作品に出演する」という契約を結びました。『キャプテン・アメリカ/ファースト・アベンジャー』『アベンジャーズ』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』と、ここまで5作品です(なお、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』や『スパイダーマン/ホームカミング』のカメオ出演は含みません)。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で最後ですが、つい先日に本人がアベンジャーズ第4弾である『アンタイトルド・アベンジャーズ(仮)』にも出演すると述べています。
もし『ブラック・パンサー』に出演するとしたら、『シビル・ウォー』で描かれた通り重く入り組んだ背景を背負ったキャラクターなので、とてもカメオ出演では扱いきれないはずなのです。しかし、本筋にガッツリ絡むのも上記の出演本数的にはなさそうです。したがって、キャプテン・アメリカは『ブラック・パンサー』には登場せず、ラフト刑務所から脱獄させた仲間たちと共に逃亡生活を送っていることでしょう。
また、バッキー。アイアンマンにトレードマークともいえる金属の左腕を吹き飛ばされ、自身に残されたヒドラの洗脳を危惧して冬眠カプセルに入ることになりましたが……
先ほどのクリス・エヴァンスの例と同じく、バッキーを演じるセバスチャン・スタンの出演作品の契約数に注目してみましょう。何と彼は「9本の作品に出演する」というクリス・エヴァンス以上の出演本数なのです。キャプテン・アメリカ3部作にすべて出演し、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』への出演も確定していますが、まだ5本分残っています。
ここからは推測になるのですが、これだけまだ出演するならば、『ブラック・パンサー』に出演していてもおかしくないと思うのです。今のうちにバッキーというキャラクターを復活させておけば、『インフィニティ・ウォー』への導入も多少はスムーズになるはずです。
ストーリー面からも考えてみましょう。そもそもなぜワカンダで眠りにつく必要があったのか?彼はキャプテンの無二の親友なので、一緒についていって逃亡生活を送ってもよかったはずです。僕には、このワカンダでの冬眠シーンが何とも伏線のように感じられてなりません。
ところで『シビル・ウォー』序盤でスタークがセプテンバー基金の発表の際、「脳の海馬をハッキングしてトラウマとなっている記憶を望みどおりに再現、心の傷を癒す」というB.A.R.Fシステムを覚えているでしょうか。僕には洗脳がどういうものかよくわからず、劇中でバッキーがある特定の組み合わせの単語を聞いた際にその洗脳が発動する、などどの程度現実に基づいているのかわからないですが……
このB.A.R.Fがバッキーの脳に刻み込まれたヒドラの洗脳を解くのに一役買うとすれば?ただし、一度スタークは復讐に駆られて本気でバッキーを殺そうとしており、それがキャプテンとの深い溝にも繋がっています。大金を投じて開発したB.A.R.Fを、自分の両親を殺した人物に貸し出すのは大きな葛藤を要することでしょう。
何とかそこを乗り越え、70年以上もずっと付きまとってきた呪縛から、ついにバッキーが解放されるとすれば、『ブラック・パンサー』はバッキーにとっても重要な転機になります。『スパイダーマン/ホームカミング』にピーターのメンターとしてアイアンマンことスタークが登場するように、『ブラック・パンサー』にはかつて追うものと追われるものだった二人が共闘するのです。
さらに、吹き飛ばされてしまった義手を、ワカンダの高度な技術を用いてヴィブラニウム製の新しい義手に付け替える、という展開もないでしょうか?ヴィブラニウムの加工と、高度な科学技術を併せ持つワカンダなら十分あり得ます。この義手はティ・チャラからバッキーへのお詫びの贈り物であり、親愛の情としての役割も果たしてもよいでしょう。このように、ヒドラに取り付けられ、大勢の人間を殺めてきた金属の義手を失い、洗脳からも解放されることで、バッキーは「ウィンター・ソルジャー」という呪われた人格から解放されます。彼はようやく、キャプテンことスティーブ・ロジャースの親友バッキー・バーンズに晴れて戻れるのです。
劇中では、襲い来るヴィラン達に対して『シビル・ウォー』で熾烈な肉弾戦を繰り広げたブラック・パンサーとバッキーの二人の共闘を期待したいところ。
ヒドラに課された「十字架」から解放され、髪を切り、ヒゲもそったらこんな爽やかなバッキーが見られたり……?かつて女の子を口説きまくっていたバッキー・バーンズに戻ってきてほしいですね~
もしかすると、以上に書いた展開は『インフィニティ・ウォー』で起こるのかもしれませんが、あまりにも盛りだくさんな内容になりそうなのでやはり『ブラック・パンサー』で済ませておいた方が良い気がします。
本作に期待したい事
まず挙げるとしたら、
1作目なのでティ・チャラというキャラクターを描いてほしい・新鮮なアクションを観たい・充実したストーリーを・MCUとの巧妙なクロスオーバー
といった点です。
しかし、それ以上に重視してほしいことが「アフリカ」である事。
マーベル・スタジオはウォルト・ディズニーに買収されましたが、近年のディズニーは「多様性」を重視し、そのメッセージを根底に様々な作品を世に送り出しています。中でも、『ズートピア』は顕著な例だと思います。
昔、アフリカ系の人々は奴隷として売買され、それが禁止されてもなお根付いた差別意識によって残酷な悪意の標的となっていました。現在でもそれが完全になくなったとは言えないものの、今や多くのアフリカ系の人々が世界の表舞台で活躍しており、それはとても喜ばしいことでしょう。
マーベル・スタジオは、自社のアメコミヒーロー達の作品を大量に製作しながら、ある一定の高いクオリティを保つ事に成功しています。そしてその懐の広さと言いますか、様々な作品をそろえているのです。今年の作品だけでも、『ドクター・ストレンジ』は異次元の魔法バトル、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』はノリが楽しいSFアクションコメディ、『スパイダーマン/ホームカミング』は誰もが知るスパイダーマンとアイアンマンのコラボで送る青春です。『マイティ・ソー/バトルロイヤル』はやはりSFアクションコメディでしょうか。
特に『ドクター・ストレンジ』は東洋のスピリチュアルな要素や思想をMCUの「形式」に解釈し、作品内に落とし込んできました。そこにアフリカの文化を色濃く持つ『ブラックパンサー』の参戦は必須でしょう。
願わくば、マーベル・ヒーローとしてアフリカのブラック・パンサーをやるというよりは、ブラック・パンサーをマーベルの技術で映像化してほしい……言い換えるなら、ブラック・パンサーを適当な文化描写で片付けず、アメリカから見たアフリカといった鋳型に押し込めようとしないでほしいということです。
ワカンダのハイテク技術など、一般の観客が喜び受け入れやすい要素を随所に入れつつ、アフリカの文化というものを伝えてほしいと僕は思います。アメリカやヨーロッパなど欧州の文化は日本人の間では憧れの対象となったりしていますが(日常生活のいたるところで見かける英語なんてその表れですよね)、「アフリカだってこんな面白い文化があるし、こういう考え方だってあるんだ」ということを教えてもらいたいのです。予告編にエチオピアのムルシ族は、その試みの伏線であると思っています。そしてブラック・パンサーというキャラクターが、キャプテン・アメリカやソー、アントマンなどのヒーローと共に日本に爪痕を残してくれることを願います。
以上、『ブラック・パンサー』についていろいろ書いてみました。
恐ろしくてんこ盛りな記事となってしまいましたが……ブラック・パンサーという新キャラクター、そしてアフリカに注目してここまで中心に据えたヒーロー映画は、マーベル・スタジオ内には留まらない「大きな一歩」だと思います。
チャドウィック・ボーズマン主演、ライアン・クーグラー監督が贈る『ブラック・パンサー』、僕はとても楽しみにしています。
『ブラック・パンサー』は2018年2月18日、全米公開。