シビル・ウォーはなぜ起きたのか___アベンジャーズ分裂・真の黒幕

f:id:the-Writer:20190303121923j:plainマーベル・スタジオ公式が史上に類を見ないほど情報統制を敷いている超大作『アベンジャーズ/エンドゲーム』、公開まで1カ月を切りました。マーベル・スタジオの今や定番となっているのは宣伝方法は、映画本編公開前にティーザー予告・予告映像を出すというものです。ケヴィン・ファイギ社長に至っては「予告編ですか?映画公開前には出ますよ」なんてふざけた茶目っ気たっぷりな発言をした事もありましたし、その発言をメディアも一大ニュースとして取り上げるほどですから、いかにこの現状が情報に飢えているかがよくわかります。f:id:the-Writer:20190228200013j:plain『エンドゲーム』の監督を務めるルッソ兄弟は、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の監督を務めてきました。スティーブ・ロジャースというキャラクターに注力するような履歴ですね。そしてMCUファンの方なら気づくかもしれませんが、彼らが手掛けてきた映画はどれもMCU全体に及ぶ大変革を描いています。『ウィンター・ソルジャー』ではそれまでの各作品をつなぎ留め、超人たちが結集するための公的組織が崩壊。『シビル・ウォー』では度重なるアベンジャーズの活動による犠牲を無視できなくなった結果、アベンジャーズは事実上の解散。『インフィニティ・ウォー』ではアベンジャーズの敗北に伴い、全宇宙の生命の半分が抹殺されました。

マーベル・スタジオの親会社であるウォルト・ディズニー・カンパニーが行う20世紀フォックスの買収が完了したとのことで、MCUにミュータントが参戦する……あらゆるヒーローたちが当たり前のようにクロスオーバーする、原作のコミックの世界観を映画で実現する、ある意味本来あるべきだった状態に戻りつつあります。一部のミュータントが重要な役割を果たした『シビル・ウォー』や『インフィニティ・ウォー』の製作を、むしろ敢えてミュータント抜きで敢行したのは英断であり、マーベル・スタジオが扱える範囲内のキャラクターで可能な限り頑張ってきたMCUも、今年2019年の『エンドゲーム』で完結すると言えるわけです。f:id:the-Writer:20190302135744j:plainその『エンドゲーム』公開記念として、ルッソ兄弟MCUで2番目に手掛けた『シビル・ウォー』についてある考察を書いていこうと思います。アベンジャーズ分裂の黒幕はヘルムート・ジモでしたが、その陰にはウルトロンがいた……。僕はウルトロンこそがキャプテンとアイアンマンの決裂のシナリオを画策し、それを引き起こしたと考えています。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』,『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』,『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』と、ルッソ兄弟ジョス・ウェドンルッソ兄弟と交互にバトンが手渡され、一見直接の関係がない『エイジ・オブ・ウルトロン』がなぜ『シビル・ウォー』の出来事を引き起こしたと言えるのか。それは以下の通りです。

 

インサイト計画+ウルトロン→アベンジャーズ分裂

f:id:the-Writer:20190302120709p:plain2012年のNY決戦にて外宇宙からの脅威をただ一人目の当たりにしていたアイアンマンことトニー・スタークは、新型スーツと並行してウルトロン・プログラムの開発に没頭していました。ウルトロン・プログラムとは、自律思考をする人工知能・ウルトロンが地球規模の脅威が襲ってきた場合でも、自動的に対処する平和維持プログラムです。トニー・スタークとブルース・バナーの共同研究として開発が進められていましたが、ある時点で限界が見えたことで一時凍結となりました。f:id:the-Writer:20190302114746j:plainしかし2015年、ヒドラ残党のソコヴィア支部アベンジャーズで奇襲をかけて壊滅させた際、NY決戦でロキが使っていた杖を押収しました。その核に当たる宝石にはインフィニティ・ストーンの一つであるマインド・ストーンが入っており、それを人工知能(のような何か)が保護しています。スタークはその分析結果と、ヒドラ残党のトップであるストラッカーが進めていた人工知能とロボット軍団の研究結果から、その両方をウルトロン・プログラムに組み込むことを発案します。f:id:the-Writer:20190302112148j:plain宝石に込められた人工知能はスタークとバナー博士に手によって再現され、ウルトロン・プログラムに恣意的に組み込まれた結果、自我を持つに至りました。データの電子世界に身を置くウルトロン・プログラムは自分なりに自分がおかれた環境を急速に学習した結果、世界にはびこるありとあらゆる矛盾に苦しんだ結果、独自の正義を持つに至ります。平和維持という根本的なプログラムに従い、自分が学習した知識と組み合わせるならば「平和のために人類こそが抹消されるべきだ」というものです。そのためにウルトロンがたてた計画をまとめると以下のようになります。

1.ヒドラ製のロボットを自分の配下へと改造する
2.強化人間のマキシモフ兄妹を仲間へと引き入れる
3.(ワカンダ産の)ヴィブラニウムを大量に手に入れる
4.チョ博士を利用してヴィブラニウム製の新しい体を手に入れる
5.ソコヴィアの一角の内部にヴィブラニウム製の巨大反重力装置を建造する
6.一定高度まで上昇したソコヴィアの一部を自由落下させ、隕石代わりに地球にぶつける

7.生存するだけの強さを持った人間のみが生き残り、平和な世界ができる

f:id:the-Writer:20190302102453p:plainなお、この人類抹消に至るまでに最大の障壁が超人集団のアベンジャーズです。決して不可能な計画ではないですが、万が一アベンジャーズに阻まれる可能性もあります。実際、確率的に勝利は不可能と思われた2012年のNY決戦もアイアンマンの決死の行動によって平和は守られました。いざ計画に従って動いているときは、それこそ無尽蔵に量産されるロボット(改めウルトロン・セントリー)を最大限駆使することでアベンジャーズと戦います。f:id:the-Writer:20190302112650p:plainしかし、万が一計画が失敗した時に備えて「プランB」を考えていた、と考えられます。元々「平和維持」を最優先事項としてプログラムされた人工知能ですから、『エイジ・オブ・ウルトロン』終盤では「もうそんなものは超えた」と口では言いつつも、やはり最優先事項を守ること、もしできなければ可能な限りそれに近づくよう努力はする、という傾向は残っていたと思うんですね。「平和」を創るには、アベンジャーズの崩壊と「隕石」を落下させることの二つがあります。後者は自分でないとできませんが、前者の方は他人でもできます。前者の方だけでも達成されれば、「平和」に至る可能性は大きくなります。もしかしたら内戦で自滅するかもしれませんし、何か自分ですら把握していない脅威が襲ってくるかもしれません。「プランB」にはある人物が代理の執行人として選ばれました。f:id:the-Writer:20190302105624p:plain2014年、キャプテン・アメリカ筆頭とするチームの尽力によってS.H.I.E.L.Dと内部に潜んでいたヒドラは崩壊しました。その騒乱のさなか、ブラック・ウィドウがS.H.I.E.L.Dとヒドラが所有していたありとあらゆるデータを全てネット上に漏洩しました。ヒドラは「インサイト計画」において、ゾラ博士が開発したアルゴリズムによって市民たちを分析したうちヒドラに敵対的である/将来敵対的になる人物たちの抹殺をもくろんでいました。ネット上に漏洩したデータには恐らくこの人物分析があり、その中にヘルムート・ジモも含まれていたのではないか?と思うのです。

f:id:the-Writer:20190302102754j:plainヘルムート・ジモはソコヴィア人であり、家庭的な男性です。その一方でソコヴィアの特殊部隊エコー・スコーピオンの隊長であり、諜報員でもあります。ソコヴィアにはバロン・ストラッカー率いるヒドラ・ソコヴィア支部があります。ヒドラは真正面から武力で世界を支配するというよりは、政治的・経済的に少しずつ浸食することによって世界を転覆させる方式をとっています。つまり直接ヒドラのメンバーでなくとも、手先として日夜様々な人間を仲間に引き入れている事が予想できます。f:id:the-Writer:20190302103841p:plainもしもゾラのアルゴリズム分析が試験的にソコヴィア支部でも人物分析に行われており、そのデータがワシントンD.Cのヒドラ本部と共有されていたらどうでしょうか?ジモがヒドラに対して友好的か敵対的かという部分はわかりませんが、「戦闘能力・知謀能力にかけては卓越したものを持っている」という評価は確実かと思われます(ちなみにスティーブン・ストレンジもアルゴリズムによって分析され、「我が強過ぎる」のでヒドラに敵対すると見なされたために抹殺対象でした)。f:id:the-Writer:20190302103732j:plainジモの詳細な分析結果がネット上に存在したならば、ウルトロンはそれを見ることができます。リークされたデータのほとんどは暗号化されていたため、ほとんどの人間は存在は知っても内容まではわかりません……が、ウルトロンは人工知能のため、何万通りもの試行をたった数秒で完了させるようなコンピューターの能力を持ちます。ジモの人物像やあらゆる行動履歴などを総合的に判断した結果、ウルトロンは彼こそ自分が倒れた時にアベンジャーズを引き裂く人物として相応しいと判断したのではないでしょうか。ジモを「プランB」の実行者としていつ動いてもらってもいいように準備するにはどうすれば良いのか。f:id:the-Writer:20190302104831j:plain「平和」を創る計画において、5番目の「隕石」をソコヴィアにすることです。地盤の種類など地質学的な要素は多少あると思いますが、地球の地面を一部えぐりとって隕石にしたいのなら、どこだってよかったはずです。その中でわざわざソコヴィアを選んだのは、単純に自分の拠点がそこだから反重力装置の建造も容易になる……だけではなかったでしょう。そもそもウルトロンはアベンジャーズが生んだ存在なので、例え負けるとしてもそれはアベンジャーズが自身の失敗の後始末に奔走したという構図になります。そしてその戦いの余波に、ジモの愛する家族を巻き込むことができれば……f:id:the-Writer:20190302105506p:plainヒドラが行った詳細な分析が正しければ、ジモはそれによってアベンジャーズを赦すことができません。理不尽に愛する家族を、彼ら自身が作り出した災厄に巻き込まれて失い、それでもアベンジャーズは特に補償や謝罪を示すわけでもなく基地に帰っていきます。憎悪を膨らませたジモは自身の能力を総動員し、アベンジャーズの崩壊のために暗躍します。実際、ウルトロンは敗北して消滅しましたが、アベンジャーズもまた崩壊しました。ウルトロンが引き起こしたソコヴィア事件含む、アベンジャーズの活動の裏で毎回起こる犠牲に対し、もはや世界が耐えられなくなったのです。理想を追求して逃亡犯となることすら辞さないスティーブと、良心の呵責や過去からのコンプレックスに耐えられなくなったスタークが決裂。これはまさしくウルトロンが目指したところではないでしょうか。ともすれば、彼ら全員の性格を分析したうえで凡そ展開は計算済みだったとも考えられるのがまた恐ろしいですね……f:id:the-Writer:20190302110811j:plain

 

全ての決着へ

アベンジャーズという超人集団は、観る者の予想を裏切って雲行きが怪しい方向に進んでいきました。『インフィニティー・ウォー』公開前、多くの観客はこう思ったはずです。「シビル・ウォーで喧嘩別れはしたけどサノスが来る今、あの二人はきっと作中のどこかで再開・仲直りしてアベンジャーズとして挑んでくれるだろう」と。f:id:the-Writer:20190305170516j:plainしかし、実際公開されてみれば二人は一度も顔を合わせることなく、それどころかスタークの方は遥か彼方の惑星タイタンに置き去りです。奇しくも『シビル・ウォー』の宣伝でよく使われた”United we stand, devided we fall"という言葉通りになっています。そしてここにきて、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』でいずれ宇宙から攻めてくる強大な軍勢を憂慮するスタークに対して、キャプテンが放った言葉が重要になってくるのです。f:id:the-Writer:20190305170918p:plain「どうやってやってくる敵を倒す?」

一緒に

「負けるぞ」

「団結するんだ」

当時はカッコいいけど漠然とした、そんな程度の認識のセリフでした。今アベンジャーズはなすすべもなく敗北し、人々を守ることはできませんでした。アベンジャーズはバラバラのまま戦いに挑んだことにより、特にスタークは(最新鋭のナノテクのスーツ・マーク50に表れている通り)全てを自分一人で背負おうとしたことにより、敗北という結末を迎えたのではないでしょうか。シビル・ウォーによってチーム内に秘密裏に存在していた歪みは浮き彫りになり、爆発しました。見方を変えれば、一度それが表に出た以上は改善することができますし、それを乗り越えて結束したチームの絆は一段と堅いものになります。f:id:the-Writer:20190305165231j:plain具体的なあらすじが一切不明な、しかし『インフィニティ・ウォー』から直結する続編のアベンジャーズ第4作目、10年続いてきたMCUの完結編となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』。『エイジ・オブ・ウルトロン』のスターク、『インフィニティ・ウォー』のストレンジが口にしてきた"Endgame"「最後の一線」に、今残ったアベンジャーズたちは立たされています。彼らはかつてウルトロンが仕掛けた罠から脱却することができるのか。ここにきて今一度結集し、サノスに対して「報復(アベンジ)」を遂げることができるのか。2019年4月26日(金)、全てが明らかになり、決着が付きます。f:id:the-Writer:20190302094545p:plain