『ハン・ソロ』考察 ~それでもハンは、「良いヤツ」なんだ~

「勇気も、男気も、銀河一。逆境が心を熱くする。運命を賭けて挑む、超光速アクション大作。」

宣伝文句まで最高かよ。

f:id:the-Writer:20181108092539j:plainディズニーがルーカスフィルムを傘下に収めて以来SWは年末に公開されてきており、12月の風物詩といえばクリスマスとSW……といった感覚が身についてきた頃に、一年の半ば辺りの5月に公開されたのが『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』でした。『エピソード8 最後のジェダイ』の公開から約半年とかなり間隔は短く、この時期にSW新作を公開するのはかなり実験的な意図があったのではと思います。『エピソード8』が自分の中でも落ち着いたころに早速SW新作を迎えられるのは非常に幸せな体験でした!その分『エピソード9』は長く待たなければいけませんが……とはいえ現行三部作の最終作とともにジョージ・ルーカスが1977年に始めた9部作からなる壮大なサーガの完結編なので、それくらいの期間を設けるのは製作側にも観客側にも必要な期間かなと思います。

f:id:the-Writer:20181110185707j:plainハン・ソロ』はやはり冒険映画でした。全編通して笑顔になるような楽しい映画であり、とにかくアクションがいっぱいです。もうこれで終わりだろうと思うと更に展開が続くので最後の最後まで飽きないんですね。数あるSW映画の中でも『エピソード7』に並んでこれ一本で人に勧められるような単独作のつくりになっているのもうれしいです。また、キャラクター達が余すことなく魅力的でした。全員が生き生きとしており、その背景も想像が膨らむような豊かな演技です。何より事前の予想通りハン・ソロが最高過ぎた……いや、前から楽しみにしていましたし期待もかけていました。ここまでドツボにはまるとは……f:id:the-Writer:20181107181553j:plainハン・ソロ一人に注目しても俳優・脚本家・監督・撮影監督・コスチュームデザイナー・ヘアスタイリストなど大勢の人間の貢献によって、このキャラクター一人が作り出されていると思うともう本当に一人一人に握手して「ありがとう」「ありがとう」と感謝したい、そんなレベルです……。

f:id:the-Writer:20181110185808j:plain『ローグ・ワン』に続くアンソロジーシリーズ、「A Star Wars Story」第二作も大成功だと僕は思っています。僕がこれだけ夢中になったハンについて色々考えるうち、ローレンス・カスダンとジョン・カスダンが親子で書き上げた脚本は、往年のハンや未来の主人公たちのつながりなどを考え抜いた結果、ハン・ソロをより興味深く豊かなキャラクターにしてくれたと思います。今回はそれについてあまりまとまっていないかもしれないですが、「その後」のハンとも繋げてあれこれ語ってみたいです。 

 

ハンという夢みる男

僕はハン・ソロを『エピソード4』で初めて知ったのですが、第一印象はそこまでよくなかったんですね。やはり観客がルークと同じように感じるような演出がなされているのですが、人を小ばかにした無愛想な態度・目の前で困っている人を見捨てる無関心さ・過去について具体的に語らない謎っぷり・裏社会を飛び回る危なっかしい奴……かと思えばどこか子供っぽいし、盛り上がってくるとノリノリで参加してくるという行動原理がよくわからない、そんなキャラクターだったんですね。f:id:the-Writer:20181107095815j:plainその後『エピソード5』『エピソード6』『エピソード7』と観ていくうち、僕の中で愛着がわいて冒険には欠かせないメンバーになりました。それでも判然としないのがレイアがそこまで惹かれる魅力とは何なのか、なぜ反乱軍の将軍にまで重用されるのか、何より彼の人間性がイマイチつかめなかったんですよね。そこにあのハン・ソロの若かりし頃の日々を描く『ハン・ソロ』が来たので、もう僕はとにかく楽しみで仕方がありませんでした。予告で垣間見せるまっすぐで元気のいい雰囲気、より彼の人間性が見えてきました。

(そういえば劇場公開前にディズニー・スタジオ公式から公開されていた予告編たちが一斉に姿を消してしまいました。MovieNEX発売に移行したためでしょうか?)

そしてようやく『ハン・ソロ』を観に映画館の席に座った僕は、オープニングのテロップが終わり、ハンが映るファースト・カットでもうね、やられちゃいましたよ。どこか薄暗く危険な場所で一生懸命M-68の起動を図るハン。血が垂れる生々しい傷と「捕まったら殺される」といわんばかりの顔が彼のおかれている状況とその切迫ぶりを物語っていました。f:id:the-Writer:20181106215549j:plainなんとかアジトに戻ってきたハンはさっきまでの苦しさどころか笑顔を浮かべてキーラと話し、ついに今夜夢が叶うと言います。このどん底のような生活から抜け出す一筋の光に、二人の恋人嬉しそうに未来を語るシーンが非常に胸に来ました。「あの無愛想なハンって昔はこうだったんだ……」ともう冒頭10分で涙腺崩壊です。キーラとM-68でアジトを抜け出す時、レバーを倒して明るい外へ向かうカットがまさしく彼の未来へ向かって突っ走っていく様子をそのまま表しているようで。もうこの時点で明白なのですが、ハンって昔から無茶してバカをやる男ですけどもっと感情を表に出す人間だったんですね。そして何より自分の信じる夢を全力で信じてる。夢を信じてるからこそ突拍子もない動きに果敢にも出られる。その自信が顔に出てニンマリとした笑顔を形作る(こんなに明るい彼なので、キーラと引き離された時の叫びと顔が悲痛すぎました……)。f:id:the-Writer:20181110185739j:plain「チャンスはあるうちに使え」というのは僕の好きな言葉ですが、今作のハンはまさにそれを体現しています。大胆にもM-68を盗み出してキーラと脱走を図り、飢えたチューイのいる独房に閉じ込められても自身の知識を総動員して意思疎通を図り、ベケット一味に入れてもらおうとめげずに追いかけ続けます。とにかくできることは何でもする、逆境でこそ輝くこのまっすぐな姿勢に非常に胸を撃たれました。f:id:the-Writer:20181107193212j:plain最初のコアクシウム強奪ミッションが失敗し、ベケットにギャングの現実を教えられつつこのまま逃げる選択肢を与えられても、それでも命の危険と隣り合わせの一獲千金のチャンスに飛びつきます。「もしどうにか埋め合わせ出来たら、金は手に入る?」「ならやる価値ある」と言うハンの顔がまぶしくてたまりません。f:id:the-Writer:20181110185844j:plain(↑重力井戸の強力な引力を振り切って光に一直線に飛んでいくファルコンがまさしくハン・ソロを表しているようで泣けます)

そしてハンはいちいち感情表現がかわいい。自分で言ったことにウンと頷いたり、ランドに「失礼」と言われた時の「なんだよ~」と言わんばかりの笑みだったり、コアクシウムを乗せた台車を押す時のウーンという顔だったり。あ、あと隙あらば人のことを指さします。とにかくオールデンのハンが可愛すぎるのでロン・ハワード監督が撮影したハンの映像をいつかすべて公開してほしいですね……予告編やTVスポットという公式に公開されたものだけでも本編に存在しない映像やセリフが大量に存在するので。f:id:the-Writer:20181107193251j:plain

ハンは細かいことはあんまり気にしなそうな性格をしています。なのでオシャレにもあまり頓着していなさそうです。ファッションに注目してもハンは昔からハンなことがわかります。薄暗い上に青一色の照明で分かりづらいですが、コレリア時代のハンを見るとベスト・長袖Tシャツ・バーコード状の模様がついたズボン……以前からハンというキャラクターを知っているファンならピンと来る通り、オリジナル・トリロジーにおけるハンのファッションそのまんまなんですよね。f:id:the-Writer:20181106231248j:plainその後、ハンはベケットに拾ってもらって帝国軍から脱走した際に新しく得た服を得ます。本編のほとんどを通して着ることになる衣装ですが、ジャケット・長袖Tシャツ・バーコード状の模様がついたズボン……これまたお馴染みの組み合わせです。『エピソード4』~『エピソード7』までは白あるいはベージュといった明るい色のシャツだったので、今作ではそれを反転させたといわんばかりの黒シャツを一貫してきていますね。f:id:the-Writer:20181106232357j:plainそして本作最後に来ている服なのですが、またしてもベスト・シャツ・ズボンという組み合わせながらよくよく見てみるとベストがあの『エピソード4』で着ているものと同一です!この時の彼の服装がほぼ黒一色な事から本編の映像ではわかり辛いので、スチル写真をどうぞ。この写真や、本編でハンの背中が映るシーンを『エピソード4』の映像と見比べてもらうと同一デザインのベストということが確認できると思います。f:id:the-Writer:20181106230425j:plain後にレイアに「(また)同じジャケット」と言われますが、いくらオシャレに興味がないとはいえまさか一つのベストを10年間来ているということは無いですよね……実際レイアに上記のように言われた時には「いや、新しい」と返していますし。もしハンがランドのようにいちいち見栄えを狙った服装を考えるのが面倒で同じデザインの服を何着も持っていたとしたら、『エピソード5』ラストのシーンも説明がつくと思います。ベイダーの罠にはまり、カーボン凍結されてタトゥイーンに連れ去られたハンを追ってランドとチューバッカがファルコンコクピットに座っているシーンです(ランドはL3との再会ですね!)。f:id:the-Writer:20181106232035j:plainここでランドはいつものようにカラフルで洒落た格好ではなく、ハンと同じベージュのシャツに黒いベストです。最初は「さっき裏切ったハンと同じ格好をしてファルコンの操縦席に座るってチューイが許してくれるのか?」なんて思いましたが、考えてみるとランドはほとんど時間がないまま着の身着のままクラウドシティを脱出する羽目になりました。よって折角そろえた数々の服も持ち出せず、やむを得ずファルコン内にあったハンの服を一着借りた……という感じだったのかもしれませんね。ちょっと脱線しちゃいました(汗)

『エピソード4』にて何とかファルコンでデススターから脱出し、追撃してきたTIEファイターも撃墜したところで小休止が入ります。ファルコン内のコックピットでハンとレイアは少しは落ち着いた状況で会話ができるようになりましたが、ハン・ソロ大義のための戦いへの無頓着さが浮き彫りになるものでした。コクピットから去り際にレイアはルークに以下のように言います。

「あなたのお友達は金の亡者ね。誰のことも何であっても気にかけない……」f:id:the-Writer:20181106232823j:plainここで僕は待て待て待てと待ったをかけたい。確かにこのハンってば感情表現がアレだから嫌な奴に見えますけど違うんですよ。思わずレイアにとくとハンの身の上話を語って聞かせたい衝動にかられます。

ハンは夢みる純粋な男であり、瞬時の機転と天性のセンスをもっていると同時に、もう一つ重要なものがあります。もしかしたらこれこそハンの本質かもしれません。それは、”Good guy”「良いヤツ」であることだと思うんですね。一緒に銀河を飛び回ると約束していたキーラが僅差でホワイトワームズにつかまった際、「必ず戻る!絶対戻るからぁぁっ!!」と誓います。f:id:the-Writer:20181107193408j:plainその場の勢いもありますが、銀河を支配する銀河帝国に迷わず入隊しました。それもいつかパイロットになって自分の船をもってコレリアにキーラを助けに戻る、という明確な夢があってのことです。削除シーンの「ソロ士官候補生」に詳しく描かれていますが、せっかく入った帝国軍のアカデミーをハンは追放されミンバンの過酷な戦場に左遷されます。本人は「自分の考えを持ったら追い出された」と語るこの騒動ですが、そもそもその発端となった事件は同じ部隊に所属する仲間を助けるために規律違反の行動をとったためでした。f:id:the-Writer:20181110185812j:plain(↑「誰も気にかけない」ならこんな顔をするでしょうか?)

いざケッセルでコアクシウム強盗ミッションを働くとき、明らかに計画外で余計な動きを見せるチューバッカにも貴重な武器を渡します。ランドがL3を助けようと危険地帯に飛び込んで負傷した時にもハンは悪態をつきつつ果敢に救出に向かいます。そして何より最終的にエンフィスの元にコアクシウムを持ってきました。ドライデンの抹殺・キーラの解放という野心も大きく動いたからというのもありますが、彼のことですからどこかで実は苦しむ人々をそのまま放ってはおけないと感じ、それでも義賊らしくそれは表に出さなかったのかなと思います。この内に秘める正義こそハンをハンたらしてめているのではないでしょうか。

 

トバイアス・ベケットの影

f:id:the-Writer:20181107181810p:plainコレリア時代のハンは19歳なのですが、『エピソード4』時のルークと同い年なんですよね。二人ともいつか広い銀河に飛び出して色々なものを見て回りたいと夢見る少年だった……というのは意外な共通点です。元来の性格や育った環境もあるとはいえ、一方のハンはなぜあの無愛想なキャラクターになったのかが本作の見どころでもあります。

先ほどまでハン・ソロの「ハン」の部分について語っていたとすれば、ここでは「ソロ」について語ることになります。元々ハンは実質孤児ともいえる境遇であり、家族や所属を示す名字を持っておらず、ただのハンであり何者でもありませんでした。つまりハン・ソロもかつて、『エピソード7』から始まる三部作に登場するレイやフィンと同じだったわけですね。f:id:the-Writer:20181107192756j:plain僕にとって『ハン・ソロ』とはハンという男がいかにしてソロという名字をものにするか、という側面があります。原題は”SOLO”ですし意外と間違ってはいなんじゃないかと。ソロという名字は帝国軍の新兵徴募将校がその場でテキトーに付けたものなので、ソロという名ににいかにして意味を見出し、ハンはハン・ソロとなっていくか……そこに大きく関与しているのが、ハンのメンターとなるトバイアス・ベケットです。f:id:the-Writer:20181107192926j:plain「ハンのメンターとなる重要キャラクターとして、ウディ・ハレルソンがキャスティングされた」という報道を聞いた時には思わず膝を打ちましたね。あのハリソン・フォード演じる伝説的なキャラクターの師匠となる大役を、相応の貫録をもって演じられる俳優は彼くらいしかしっくりきませんでした。

f:id:the-Writer:20181107213151j:plainハンがベケットに運命的な出会いをしたのは地獄のような戦場です。ハンが仲間のために規律違反をして左遷されていなければ、無謀な作戦を強行して眼前で死亡した上官の指示に盲従していれば、決して出会うことはなかった人物であり、個人的にこの偶然性の面白さを感じます。重厚な射撃音を放つブラスターを2丁拳銃を華麗に使いこなす姿は瞬時にその道のプロであることを語り、ハンも本能的に上官として信頼できると確信しました。節々の会話からハンはベケットが帝国兵を装った犯罪者集団であることを見抜きますが、それでも仲間に入れてもらおうと奮闘します。どんなに邪険に扱われても一度なついた犬のように、ハンは忠実にベケットの後を追います。自身が死ぬまで使い続けることになる愛用のブラスターDL-44も、このベケットから託されたものということが判明しました。

せっかくハンとチューイという戦力を増やしてなお、ドライデン・ヴォスに課せられたコアクシウム強奪ミッションは失敗し、「ファミリー」と呼べるくらい大切な仲間であるリオとヴァルが命を落としました。以降はハンとベケットは曲がりなりにもお互いに心を開き、一種の親子のような関係を築きます。ハンは「誰も信じるな」という教えや裏社会での立ち振る舞いを学び、ベケットはこの無鉄砲な若者の中に一種の希望のようなものを見出したのかもしれません。

f:id:the-Writer:20181107214030j:plainしかしハンがいざ入手した100kgの精製コアクシウムを使ってドライデンを出し抜こうとしたところ、ベケットが予想外の動きを見せたことは本編で描かれた通りです。なお、その更に裏をかいたハンは見事にベケットの教えをものとしており最終的にベケットを「先に撃った」のです。死にゆく「父」にその成長を認められ、ハンはその自分の腕の中でその最期を看取りました。リオとヴァルを失い、L3を破壊され、ランドには逃げられ、ベケットを自分の手で殺し、ついにはキーラにも去られたハンは本当にソロ=独りになった……それでもチューイだけは傍らについてくれるからこそ、この二人の普遍の絆の堅さがわかりますね。

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以下、『ハン・ソロ』から『エピソード4』までの10年間に関する妄想です。ミレニアム・ファルコンもきっちりランドから取り上げ、こうしてハンはチューイと共に裏社会でアウトローとしての第一歩を踏み出すことになりました。ケッセル・ランを12パーセクでやってのけるほど飛びぬけて優秀なパイロットであるハンは、最初は雇い主に「生意気な小僧」だと鼻で笑われても優秀な仕事っぷりで返します。常にスリル満点の冒険を求めるハンには、この密輸業者という仕事はまさに天職だったのだと思います。しかし彼が渡り歩かないといけないのは誰が敵かわからず、常に自分の背後を警戒していなければ生きていけない危険な世界……それがSWの裏社会であるアンダーワールドです。密輸業者として腕を上げていくハンですが、とても几帳面とは言えない性格のため、色々適当な口約束もしてしまいます。で、危なくなったら得意の口八丁や機転を利かせてその場を逃れると。大量に恨みも買ったことでしょう……。そうしているうち、かつてのように感情のままに突っ走っていてはうまくいかない事を悟ります。感情を隠し、時には冷酷になり、敵を出し抜かないといつ背中にブラスターの銃口が押し当てられるかわからない……。f:id:the-Writer:20181107221319j:plainあの満面の明朗な笑顔は徐々になりをひそめ、どちらかというと冷笑的で皮肉のこもった笑みになり、無条件で夢を信じられる自信家だった性格は経験に裏打ちされて更に自信家に。僕はこうしてハン・ソロとしての人格が出来上がっていったのではないか、と思います。望み通りアウトローになったハンですが、その代償としてかつての自分を押し殺して生きることになりました。ハンは大人になり、現実を悟ります。この弱肉強食の世界では純粋に夢を追いかけているだけでは生きていけない。もう自分がそうやって生きていくことは無い……。そして自分がこの世界に足を踏み入れてから丁度10年後、奇しくもかつてベケットが向かおうとしたタトゥイーンで、ハンはモス・アイズリーの酒場にいました。いつものようにまた借金に追われてどうするか悩んでいたところに、相棒のチューイが一風変わった依頼人を連れてきます。f:id:the-Writer:20181107221020j:plain薄汚れた身なりのうさんくさい老人と少年です。不敵な条件を提示する老人と、生意気にも「自分で船なんて飛ばせるさ」とつっかかる少年に対する態度は、もうかつての自分ではなく、厳しさと冷たさを持つプロの対応でした。この時はまだこの二人がどれほどすさまじい人物であり、これから銀河を変えていくかをハンはまだ知りません。この出会いがどれほど重要であり、自分の道を変えていくかも知りません。帝国の追撃を逃れ、ハイパースペースに飛んだファルコン内でオビ=ワンはルークにフォースの手ほどきを受けさせています。この10年間でハンはかつてコレリアで恋人のキーラに語っていたように「銀河を飛び回って」色々なものを見てきましたが、それでもフォースの存在を信じません。ブラスターと策略、そして権力がものをいう世界に生きてきたから必然とはいえるのですが、フォースを笑い飛ばします。f:id:the-Writer:20181108095445j:plain自分が初めてギャングの仕事をし、結果としてそのボスを殺害して囚われていたキーラを解放したと思ったら、理由もわからないまま彼女は去っていきました。ボスと思われていた人物の上には更に上がいて、彼は暗黒面のフォースと深紅のライトセーバーの使い手として犯罪組織の頂点に君臨していました。「このままハンと逃げても、フォースの使い手は不可能なこともやり遂げる。いつか絶対に見つけ出され、殺される」と思ったのか、言われた通りにダソミアに向かいます。所詮ただの人に過ぎない自分はフォースの力にはかなわないと悟っていたのでしょう。ハンを想うからこそ自分を犠牲にし、せめて自分が最後にできる事としてハンを守ったと言えます。そのような事情はつゆ知らず、フォースの存在を笑い飛ばすハンの笑顔が非常に切なく思えますね……。

 その後デススター内に足止めされた時は得意のドタバタでどうにかレイアを救出し、脱出(唐突にストームトルーパーの軍団にアアアァァァァァーーーーーと突っ込んでいくシーンも、彼が地獄のミンバン上がりということを知っていると頼もしく見える不思議)。f:id:the-Writer:20181108132559j:plainようやくヤヴィン4にたどり着き、反乱軍はスカリフからデススターの設計図を手に入れました。ハンは約束通り多額の報酬を受け取ります。ここで強者がすべてを手に入れる厳しい現実を生きてきたハンと、フォースと共にまっすぐ大義を信じるルークとの間に衝突が生じました。なんだかんだでパイロットとしても優秀なルークをハンは気に入っていました。ルークが去って行った後ハンはふと思い出したのではないでしょうか。巨悪に立ち向かうため、無謀な戦いに身を投じる若者と技術と経験を併せ持つプロの大人。個人的には密輸業者として独り立ちしたハンはベケットに似ていると思います。年下の人間のことを"kid"と呼び、強かにアンダーワールドを渡り歩く男……。『エピソード4』のハン・ソロはまさしくベケットを師匠に成長したハンなんだと思います。f:id:the-Writer:20181108131641p:plainここでルークもろとも反乱軍を見捨てれば、かつてサヴァリーンで自分を見捨てたベケットと同じになる、そう思ったのではないでしょうか。自分がルークのような時代があったからこそ、心が揺さぶられる。ハンは無意識のうちに、ルークのうちにかつての自分を見ていたのかもしれませんね。

ハン・ソロベケットではありません。「新たなる希望」と出会ったことで、現実を学び夢が薄れていたハンの中で、あの時の情熱と希望がよみがえったのではないか。こう考えると、デススターのトレンチランで窮地に陥っていたルークを、アウトローらしく予期せぬタイミングで助けに駆け付けたミレニアム・ファルコンが非常にアツく思えます。今にもL3のリベリオーーーーン!!!という声が聞こえそうであり、この銀河の運命を決定する戦いの最中にノリノリでイヤッホウッ‼とファルコンを操縦するハンにかつてのハンが重なって見えます。ハン・ソロはかつて出会った勇敢な反乱者のエンフィスが言ったように、こうして自身も反乱者としての第一歩を踏み出したのだと思います。

 

ダイスを転がした先で

ハン・ソロが恋した相手はレイアが最初ではありませんでした。キーラと二度も引き裂かれてしまったのはハンにはどうにもならなかったまさに悲劇としか言えません。ここで改めてハンが恋した相手がなぜレイアだったか考えると、彼の成長がわかると思います。

f:id:the-Writer:20181110195550j:plainキーラとレイアをみていると、二人とも頭が切れ、気丈さを併せ持つ似た者同士な女性です。しかし一つ決定的な違いがあるとすれば、それは「自分よりもはるかに巨大な悪に直面した時にどうするか」という事ではないでしょうか。キーラはとにかく「生き延びるため」、どんなに汚い泥を被ることも厭いません。その点レイアは小説『オルデラーンの王女』やアニメ『反乱者たち』と『エピソード4』で描かれている通り、自分の死をまるで恐れずとにかく大義を信じて戦い抜く心構えです。どちらが優れているかというわけではなく、同じ勇敢さという部類でもここまでベクトルが違うのは興味深いです。キーラとの会話の節々から、そしてキーラに去られてようやくハンはキーラが裏社会という泥沼から逃れられなかったという事を察したのではないかと思います。f:id:the-Writer:20181110195657j:plain一方レイアはどんなに傷つけられてもそれをこらえて前に進み続ける人間です。ハンのレイアへの恋は、キーラをないがしろにしているわけでもレイアの中のキーラに恋しているわけでもないと思います。レイアの屈しない心、正義を信じる気質にこそハンは惚れたのではないでしょうか。

コレリアから始まった泣いて笑った冒険の日々も、スターキラー基地で終わりを迎えることとなります。フォースの暗黒面を覚醒させた息子の手によって殺害されるというあんまりな結末は、ある意味壮絶なハンの人生にはふさわしい幕引きだったかもしれません。しかし『ハン・ソロ』によって、ハン・ソロもまたがむしゃらに突っ走った日々があり、一生懸命に生きた一人の男ということが分かった今この展開があまりにも悲しすぎます。あの元気でとんでもないミッションの数々をこなしてきたアイツは殺されてしまい、もういない、という喪失感。それでも十字のライトセーバーで自身の父を貫いたカイロ・レンのことを、僕は恨んだり怒りを向けたりすることができません。その理由を語るのはまた別の機会に譲るとして、このシーンにこそハンの本質があるという事、そしてハンの死はただ悲劇的なだけではないという事を書きたいと思います。f:id:the-Writer:20181108213254j:plainf:id:the-Writer:20181108213256j:plainかつて「父」を殺した自分が、息子のその手によってその生涯に幕を閉じる……あまりにも皮肉で悲劇的すぎる結末です。父が裏切ったからこそ殺さざるを得なかったのに、気づけば自分の息子に向き合わないことで裏切っていた……。ハンは光刃に腹を貫かれて驚きこそすれどその顔に怒りといった攻撃的な感情は一切ありません。「赦してほしい」、そんな顔をしているように思えます。息子の顔に優しく触れ、ハンは最後の息を吐いて奈落の底へ転落しました。『ハン・ソロ』を観てからことさら思ったのですが、やはりハンは最後まで良いヤツだったのではないか、と。決して自分の息子や状況を恨まず、自分の積み上げてしまったツケを受け入れ、死の瞬間まで息子に優しい愛情と謝罪を向けていたのではないかと。それでもベンがハンを許すかどうかは別問題というのがまた悲しいですが……。とはいえ人物の死が本当の終わりではない、というのはSWでは特に顕著だと思います。例えばアナキンに比べると言及が少ないパドメも、ルークやレイアはふとした瞬間にその面影を想起させたりパドメらしい大胆さで行動を起こしたりします。チューイやレイア、ルークを置いて独りで逝ってしまったハンですが、彼を覚えており、彼に影響された人が生き続ける限りハンは生き続けると言っていいでしょう。

 米国本国のSW公式サイトで、『エピソード9(仮)』のキャストが公式に発表されました。その中に、「ビリー・ディー・ウィリアムズがランド・カルリジアンの役を再演」とあります。

f:id:the-Writer:20181110201539j:plainハン・ソロ』で描かれた通り、ヴァンドアのフォートイプソで出会った二人は作中通してずっとお互いを信用していない危うい関係でした。しかし、それから13年もたつと気づけばある程度確固とした信頼関係を築いているように見えます。『エピソード6』では連携作戦を成功させることでついにエンドアの戦いに勝利し、もうお互いに悪友という名の親友となったと言えるでしょう。『エピソード6』~『エピソード7』の間の空白の30年はあまり多くは語られていませんが、小説『Aftermath: Empire's End』,『ラスト・ショット』にてランドと父親となったハン及びベンとの関係が断片的に語られます。相変わらずイカサマ師な彼ですが、ベンの誕生日祝いにマントを送ったりとハン,レイア,ベンのソロ一家と良好な関係を築いていたようです。f:id:the-Writer:20181109193056j:plainルークやレイアはハンを一見「嫌な奴」に見える時期からしか知りません。しかし、ランドは快活だった(キーラと一緒だった)時代からハンを知っています。そして彼はその息子であるベン・ソロを赤ん坊のころから知っており、ソロ親子に関してここまでよく知っている数少ない人物がランドなのですね。『エピソード9(仮)』でランドが何らかの形でベン・ソロを正しい道に戻るのに何かしらの形で関われば、ハンも報われるのではないかと思います。

音楽面でもひそかに期待しているのが「ハン・ソロのテーマ」が『エピソード9(仮)』で一回だけでも流れないか、という事ですね。『エピソード9(仮)』でも音楽を担当するジョン・ウィリアムズは『ハン・ソロ』のためにわざわざハンのテーマ曲を書き下ろしました。一番わかりやすいのは劇中でロゴが堂々と出るところですね、景気よく流してくれます。その他にも要所要所のタイミングで的確に流れることでハンというキャラクターをより印象付けていますね。『エピソード9(仮)』では例えばランドがハンについて言及する時、かすかにでも流れてくれれば……。

 

もっとハン・ソロをくれ

f:id:the-Writer:20181109201320j:plainハン・ソロ』にて若きハンを演じたオールデン・エアレンライクは3000人以上の候補者の中からこの大役を勝ち取っており、その実績に見合う素晴らしい演技を披露してくれました。彼は『ハン・ソロ』含む3作品分への出演契約をルーカス・フィルムと結んでおり、本人にハン・ソロを再演する意志はあるという事になります。そのオールデンの演技の指針となる脚本は、『エピソード5』,『エピソード6』,『エピソード7』と脚本を担当したローレンス・カスダンとその息子であるジョン・カスダンが書きました。

f:id:the-Writer:20181109201410j:plainそのジョン・カスダンがTwitterで述べるところによれば、やはり興行収入の問題から続編をすぐに実現するのは難しいのだそうで……。しかし、監督を務めたロン・ハワードもSW映画をまた監督することに意欲を見せています。Twitterでは#MakeSolo2Happenというハッシュタグもありますし、ドナルド・グローヴァー演じた若きランド・カルリジアンにも絶賛の声が数多く集まりました。前々から思っていたのですが、ハン・ソロをまた観るのにその形式は別に映画である必要はないのではないでしょうか?

preview.disneyplus.com

今年の米国時間11月8日、ウォルト・ディズニー・カンパニーは同社が独自に開始する配信サービス「Disney+」を発表しました。2019年末から始まる本サービスは、今までディズニーが買収してきたマーベル・スタジオやルーカス・フィルムのコンテンツも配信する予定です。具体的には、SW史上初のTVドラマシリーズの独占配信も行います。

Disney+で配信が決定しているSWのTVドラマは『ザ・マンダロリアン(原題)』と、キャシアン・アンドーを描くドラマの二つです。NETFLIXの台頭により、ドラマとは一週間に一度の放送を待ちわびるものではなく、毎月定額払うことによって一気見するものという認識が広まっています。つまり映画よりも長い物語を楽しめる新しい形態の視聴サービスです。

製作費について調べてみると『エピソード7』は約2億4500万ドル、『ローグ・ワン』は約2億ドル、『エピソード8』は不明、『ハン・ソロ』は約2億5000万ドルでした。一方の『ザ・マンダロリアン』は全10話でおよそ1億ドルと伝えられています。製作費は映画より安く、映像は映画よりもたっぷりあり、そして配信開始と同時に手軽に観られる……などなど、年に一度の公開で他のスタジオとの競争もある映画公開という形と比べるとかなり好条件がそろっていると思われます。

このストリーミングサービスならオールデン演じる若きハンをまた観ることができるのではないか、と僕は思っています。一番望ましいのはハン・ソロ主演のドラマが実現する事ですね。もしくはドナルド・グローヴァーが『アトランタ』での才能を活かして自身が主演・脚本・製作・監督を務める『カルリジアン・クロニクル(妄想)』でガッツリハンが関わってくるでも(ランドは嫌がりそうですけど)。『エピソード4』に至るまでのハン・ソロには語られるべき物語がまだまだあるように思います。

f:id:the-Writer:20181110184154j:plain『ザ・マンダロリアン(原題)』は『エピソード6』から3年後が舞台とのことですが、若きキャシアンが活躍する時代はまさに『エピソード3』~『ローグ・ワン』の時期に思いっきり重なるんですよね……。反乱ネットワークの情報員「フルクラム」として活躍していたキャシアン・アンドーは、その軌跡で数々の「反乱者たち」と接触していても何ら不思議ではありません。言い方を変えれば『反乱者たち』,『ハン・ソロ』,『ローグ・ワン』(小説『ターキン』はマイナー過ぎますかね』)のクロスオーバーが実現する可能性があるのです。『ローグ・ワン』ではヤヴィン4の反乱同盟軍本部にてヘラの名前が放送でかかりましたし、そのようなささやかなものでも僕は飛び上がって喜ぶと思います。

2018年時点で全10作あるSW実写映画では『ハン・ソロ』の興行収入は第9位と不本意な結果に終わってしまいました。あくまで個人的に作品の出来は素晴らしいものと思っており、やはり公開の時期がまずかったのかなと思います。SWの世界はまだまだ面白いものがいっぱい存在していると思うのでそれを探求してくれるのは大歓迎です。『エピソード8』を手掛けたライアン・ジョンソンが脚本・製作を務める新しい三部作や、『ゲーム・オブ・スローンズ』の脚本・製作を務めたデヴィッド・ベニオフ&D.B.ワイスコンビによる映画シリーズも非常に楽しみにしています。今までは「A Star Wars Story」に頼るか、まだ公開時期も発表されていない上記の映画群を心待ちにするしかありませんでしたが、「Disney+」には考えるほど膨大な可能性が眠っていることに気づきます。日本ではどのような扱いになるのでしょうか?今後の動向に期待したいです。

 

最後に

f:id:the-Writer:20181110185917j:plain『エピソード8』を経て『ハン・ソロ』を観るという流れにはアツい流れを感じていました。『エピソード8』は「一人一人がそれぞれの背景を持ち、その時を生きる人間であり、主人公になれる」と提示してくれ、まさにその理念を映画化してくれたような「A Star Wars Story」として公開された『ハン・ソロ』。それを観て僕は思いました。「ああ、今までなんか嫌なヤツだと思っていたハン・ソロこそ、予想だにしない過去があったんだ。彼もがむしゃらに夢を追って生きていた一人の男だったんだ」と。僕は今までSWの世界観や物語に夢中になっても、特定のキャラクターがすごい好き……という事はありませんでした。オールデン・エアレンライクのハン・ソロは僕が初めて、ここまで熱中できたキャラクターなんです。

 

 

 

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まあ、結局

ハン・ソロ、最高!!!