「時間泥棒」計画解説_『アベンジャーズ/エンドゲーム』

f:id:the-Writer:20190515210659j:plain2019年4月26日、『アベンジャーズ/エンドゲーム』が公開されました。これまで続いてきたMCU「インフィニティ・サーガ」の実質の完結編であると共に、観た人ならお分かりの通り、これからのMCUを永遠に変えてしまうほどの大激震が起こしています。公開前からファンの間で散々言われていた「タイムトラベル」……それがこのMCUにも大々的に持ち込まれたのです。製作にかかわっている中でこの展開を知っていたスタッフたちはよく誰一人としてこれを漏らさなかったなと切に関心を覚えました。

その中で、EGで行われた歴史への介入は他のSF作品とはまた違ったルールが設定されています。言ってしまえばこの作品に込められている情報量が尋常ではないので、完璧に理解しないでも十二分に楽しむことはできるのですが……このタイムトラベルについて理解を深めることこそ僕なりに十二分に楽しむ事です。という事で、過去に既に2本のタイムトラベルについての記事を書いた僕が三本目に着手しようと思います(`・ω・´)

映画本編だけではよくわからなかった方は、これが映画中の描写を理解する助けになれば幸いです。また、可能な限り監督や脚本家といった公式の関係者による発言も元にしますが、それでもわからない所は僕独自の推測で補う事があります、それをご了承していただける方のみ下にどうぞお進みください。

MCU世界における時間のルール

f:id:the-Writer:20190515211533j:plainブルース「過去を変えても現在は変わらない。君の過去が現在になり、君の現在が過去になる」 

量子世界から帰還したアントマンことスコット・ラングの証言により、生き残ったアベンジャーズに「全生命の半分が消し去られた」大惨事を解決する希望が生まれました。タイムトラベルにより、過去からインフィニティ・ストーンを集めてもう一度あの全能の力を放つ「指パッチン」を発動することです。これはトニー・スターク,ブルース・バナーの頭脳、そしてスコットの持つピム博士の遺したテクノロジーによって「時間泥棒計画」として実を結びます。そしてブルースが量子スーツのテスト中に言ったのが上記のセリフです。f:id:the-Writer:20190515210710j:plain時間泥棒計画を発動したアベンジャーズは自分たちの歴史上の各地点に飛びます。キャプテン・アメリカ,アイアンマン,ハルク,アントマンのチームは2012年に発生したNY決戦に介入しました。ハルクが担当したのはNYサンクタムに存在するアガモットの眼、すなわちタイム・ストーンです。しかし当然ながら、ストーンの守り人たるソーサラー・スプリームのエンシェント・ワンと遭遇します。科学でトップクラスのブルース・バナーと、魔術でトップクラスのエンシェント・ワンの象徴的な会話にて、タイムトラベル含む世界の法則が語られました。

f:id:the-Writer:20190515211724j:plainエンシェント・ワン「インフィニティ・ストーンは時間の流れを形作る。それを一つ取り除けば時間軸に分岐が生じ、あなた方の世界は救えてもこちらは闇の世界に対抗するすべを持たない」

これらを僕なりの解釈で説明するとこうです。

まずブルース・バナーの「過去が現在になり、現在が過去になる」というややこしい発言なのですが特に大したことではなくて。今回のタイムトラベルは過去へと飛ぶためのものでしたが、仮に5年前にタイムジャンプしたとしても自分が5歳若返るわけではないということです。スコットやローディが劇中で上げたタイムトラベルを扱ったSF作品でもこのようなパターンはほとんどなく、5年前にタイムジャンプしても自分の肉体はいつも通り時間が流れて年を取っていきます。 

Official Handbook of the Marvel Universe A to Z Vol. 5

Official Handbook of the Marvel Universe A to Z Vol. 5

 

MCUは無数に存在する並行世界の内の一つ___これは『ドクター・ストレンジ』のエンシェント・ワンから語られました。2008年に出版された『Official Handbook of the Marvel Universe A to Z Vol. 5』によれば、MCUは「アース-199999」という名前の世界であるという設定が記述されています。他に、原作コミックの世界は「アース-616」,『X-MEN: フューチャー&パスト』以降のX-MENの映画群は「アース-TRN414」,サム・ライミ監督のスパイダーマン三部作は「アース96283」といったように……。

アース-199999のルールとして特徴的なのは、「一度起こってしまったものは変えられない」「インフィニティ・ストーンによって秩序が保たれている」事です。過去に戻って何かを変えれば、変わった未来がそのまま新しい世界として誕生してしまい、自分がいる現在は何一つ変わりません。実際、EG劇中ではネビュラ(2023年)がネビュラ(2014年)を射殺しましたが、彼女は消えることはありませんでした。また、以前のインフィニティ・ストーンについての記事に書いたのですが、ストーンはこのような設定です。

まずインフィニティ・ガントレットの前にそれのエンジンともいえるインフィニティ・ストーンですね。宇宙誕生の前には6つの特異点があったと言います(虚無しかなかったとも)。そこに突然ビッグバンが起こり、現在の宇宙が誕生しました。詳細は不明ですが、全宇宙の不変の法則そのものともいえる力を持つ存在である、4人のコズミック・エンティティー:デス,エターニティ,インフィニティー,エントロピーがいます。6つの特異点は4人のコズミック・エンティティーによって6つの強大なエネルギーの結晶体へと姿を変え、現宇宙の存在の各面を司るインフィニティ・ストーンが誕生しました。彼らとストーンを描いたレリーフがGotG冒頭の惑星モラグの寺院に存在しており、後でコレクターがガーディアンズに見せる数々のアーカイブでそれが確認できます。

出典:インフィニティ・ガントレットにまつわるアレコレ - the-Writerのブログ

これに加えて新たに判明したのが、インフィニティ・ストーンこそが時間の流れを形作るという設定です。つまりインフィニティ・ストーンがこの世界を形あるものにし、秩序をもたらしています。補足ではありますが、この法則にのっとるならばストーンが完全に消滅すれば世界の破滅といった事態が予測されます。が、ルッソ監督によれば2018年にデシメーションを引き起こしたサノスはその後ストーンを破壊しましたが、完全に消滅したのではなく、原子レベルまで分解する事で誰にも使えなくした、とのことです。よってストーンはまだこの宇宙に存在しているとされています。だからその後の世界も一応無事には機能しています。f:id:the-Writer:20190517174959j:plain時間の流れに注目してアース-199999のルールを分析します。エンシェント・ワンが示した通り、時間とは過去から未来へと流れています。この宇宙はビッグバンによって始まり、それより前に存在した特異点が結晶化したストーンが時間・空間・力……といった数々の根本的な法則を定めています。

一般的に時間には過去・現在・未来という3つの区分がなされています。そしてこのアース-199999において特徴的なのは、過去は決まっているもの・未来は決まっていないものという事です。これはEG含む複数のMCU作品から判断することができます。過去については、EGで「過去を変えても現在は変わらない」と語られました。既に起こり、歴史として刻まれた出来事はどうやっても改変することができません。その一方で、未来は数々の可能性が存在することが、IW中盤のストレンジによって語られました。

未来とは、その全てを観測し「この展開が良い」と認識した個人による介入がない限り、どの展開になるかは完全にランダムです。ならば現在とはそのいくつもの起こりうる可能性が「起こり」、確定していく瞬間なのです。この時間の法則の説明にこのような図を用意してみました。f:id:the-Writer:20190517172340j:plain御覧の通りスパイダーマンに注目し、2016年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』,『スパイダーマン/ホームカミング』と2018年の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の出来事をそれぞれ「過去」「現在」「未来」としています。赤〇で囲まれている過去と現在は、既に特定の出来事が起こったという事で歴史が「確定」している、白〇は起こるかもしれないが起こらないかもしれないという事で「不確定」という意味で捕らえてください。トニー・スタークのスカウトでライプツィヒ空港でアベンジャーズと交戦したピーターは後に武器商人のヴァルチャーを捕まえます。ヒーローとして一人前になったピーターには様々な可能性があります。アイアンスパイダースーツを着用して宇宙に行くかもしれない、メイおばさんにヒーロー活動を禁止されるかもしれない、ヘマをしてクラスメイト全員に正体がバレるかもしれない……そんな幾多の可能性が同時に存在しており、ピーターは自身の行動によってそれを選び、自分の過去としていきます。僕はMCUの時間軸とはそうやって形成されていっていると考えています。f:id:the-Writer:20190517174059j:plainここからは推測なのですが、量子世界を用いたタイムトラベルで既に確定した過去へ行くことはできても、確定していない未来へ行くことはできないものかと思われます。例え行けたとしても、出発した元の世界に帰れる可能性は低い相当に危険な試みであり、恐らく自分が到達した未来が現在となり、それが新しい並行世界として分岐→元の現在(今や世界)からは自分がいなくなる……といった事態が考えられます。

 

マルチバースの実現

f:id:the-Writer:20190517175548j:plain時間泥棒計画の成功により、6つのストーンをアベンジャーズの現在(2023年)で「逆・デシメーション」を発動することができました。その後、すべてを終えたスティーブが借りたストーンをそれらが取られた直後の瞬間に返却します。これによって計6つの「ストーンがなくなった」世界は一瞬生じては消滅した(元の世界に統合されたともいえる)事になります。しかし、この計画では予期せぬ数々のトラブルが起きました。

2012年時点でエンシェント・ワンが自身の死よりも先の未来の展開を知ります。彼女はストレンジが魔術師になるまでタイム・ストーンで何度も歴史を繰り替えしていましたが、それでも魔術の限界か自身の死より先の時間を見ることはかないませんでした。それだけでなく、キャプテン・アメリカはバッキーの生存を知り、ロキはスペース・ストーンをもって逃亡。2014年からはそれまで宇宙各地で虐殺を重ねてきたサノス軍が突如全てきれいさっぱり消失します。もちろん以上に挙げた以外にも数えきれないほどの過去介入が行われていますが。しかし後の歴史を改変してしまうほどの大きな変化は以上のものかと思われます。

ストーンの返却だけでは修正できないこれらの変化は、それぞれ時間軸を分岐させることで新たな並行世界を作り出していると思われます。各新世界がどんな展開を迎えるかはわかりませんが、例えばS.H.I.E.L.D内に潜むヒドラが本来の2014年より早まった世界。サノス軍が消えたことでドワーフたち・ロキ・ガモーラ・ヴィジョンが生存している世界。今まで「もしもあの時~だったら…」という夢でしたかなかったことが本当に実現してしまいました。f:id:the-Writer:20190517180302j:plainドクター・ストレンジ』にて、ストレンジの兄弟子のモルドはこんなことを言っていました。ある程度技量を身に着けたストレンジがアガモットの眼を操作していたところをモルドとウォンが止めに入るシーンです。「いたずらに時間を操作すれば異次元への扉が開く!空間のパラドックス、タイムループ!同じ時間を未来永劫生きたいか?」と。アガモットの眼を無断で使用したストレンジへの警告でしたが、EGはこれすら伏線として回収していたのです。f:id:the-Writer:20190520141442j:plain今年後半よりウォルト・ディズニー・カンパニーが開始するストリーミング・サービス「ディズニー+」(日本ではどうなるのでしょうね?)では、数々のMCUに属するドラマの製作が発表されています。現在発表されている『ロキ(原題)』,『ワンダヴィジョン(原題)』,『ファルコン&ウィンター・ソルジャー(原題)』……ケヴィン・ファイギ氏はこれからのMCUにも大きく影響すると述べています。しかし一つ特徴的なのは、明らかにEGで生き返ることは無かった犠牲者も含んでいる事です。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー(原題)』はEGから直接つながる2023年以降の物語だという事が判明しています。他の二本はEGの事件を経たアース-199999でやるにはかなり難しい話ではないでしょうか?しかし、EGにて本格的に展開を始めたマルチ・バースによってこの実現が可能になりますよね。現に、ジョー・ルッソ監督は2012年のロキの逃亡=スペースストーンの移動が新たな時間軸を分岐させたことを認めています。魔術に属するであろう唯一無二のタイム・ストーンを用いずとも、科学の量子力学とピム粒子・そしてスタークが最後に生み出した「金の卵」によって自然の摂理の操作が可能になり、多元世界にまで影響が及ぶ結果になりました。

ちなみにですが、これまで散々アース-199999と称してきたMCUなのですがこの名前が改訂される可能性が浮上していまして……。

現在は削除されているのですが、Youtubeトーク番組『Ellen's Show』で公開された『スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム』の本編クリップ映像が公開されていました。フューリーに連れられたピーターが「並行世界からやってきた」とされるミステリオことクエンティン・ベックと会話するシーンです。彼の説明によると、今ピーターがいる世界は「アース-616」であるそうで……。これは本来なら原作コミックの世界の名前です。恐らく何年も前に出版されたコミック関連の書籍の記述よりも、現行の映画本編の描写が優先されると思うので、これからはアース-199999は(映画の)アース-616と呼ばないといけなくなるのかもしれません。

 

 

 

以上が『アベンジャーズ/エンドゲーム』にて描かれたタイムトラベルに対する僕の意見でした。2017年にディズニーCEOであるボブ・アイガー氏は「MCUは今後は時間・地理からより自由になる」と言っていましたが、2014年の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』からMCUにおける軸を設定してきたルッソ兄弟と脚本家コンビが「今後のMCUを一切考えずに」書いた容赦のない展開は結果的に、単作できる物語の余地を大きく拡げたように思えます。今はディズニー+がどうなるのか、それが大きく気になりますね……。