『ヴェノム(原題)』から考える、SMUの向かう先とは

 

 『スパイダーマン/ホームカミング』が日本では8月11日に公開されますが、そんな中ソニー・エンターテイメントより重大発表がありました。

 ~~~『ヴェノム(原題)』で主人公エディ・ブロックを演じるのはトム・ハーディに決定。ソニー・マーベル・ユニバース(SMU)は2018年10月5日に全米公開。今秋、プロダクション開始。~~~

 

ファンの間では前々から存在が知られていた本作でしたが、まさかのヴェノムの単独映画製作がいよいよ始動。しかも主演はあのトム・ハーディ

 

ヴェノムって誰?

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ヴェノムとは、マーベル・コミックの人気キャラの一人でスパイダーマンのライバル的な存在。カメラマンのエディ・ブロックと、地球外生命体であり共生生命体のシンビオートが融合した姿です。一度スパイダーマンの能力をコピーしているために、見た目や能力はオリジナルに似ているものの、パワー・スピードなどあらゆる能力が増しており、見た目も凶悪になっています。地球人と共生生物が一体となっているため、一人称が「俺たち」なのも一つの特徴です。

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スパイダーマン3』でのヴィランも務めたので、一度実写化されているキャラクターなわけです。

 

今回は、その『ヴェノム(原題)』がこの先どのような展開になっていくのか?ということを考察していきますが、僕は原作コミックについては全くわからないので、「コレコレこういうエピソードを~」という具体的なものではなく、ソニーが主導する今後のマーベル映画の展開やクロスオーバーについてを主体に進めていきますね。

 

あの時の夢を、もう一度

まず、このヴェノムというキャラクターの単独映画について。個人的には、この強烈なキャラクターをいきなり主人公に据えて一本製作というのは思い切った決断だなーと思いました。

今や打ち切りになってしまいましたが、アメイジングスパイダーマン2部作に続いて、スピンオフとして『シニスター・シックス』が計画されていたことがありました。

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それはスパイダーマンの代表的ヴィランが結集したチームを描く、ヴィラン主人公のスピンオフ。ヴェノムもその6人に含まれ、後に単独作も製作されるはずでした。しかしアメイジングシリーズが打ち切りになってしまったので、『シニスター・シックス』も消滅、ヴィラン達のチームを主人公とした映画でスクリーンに公開されたのは、DCコミックスの『スーサイド・スクワッド』となりました。

 

この『ヴェノム』製作について、よほどソニーに自信があるのかはわかりませんが。エディ・ブロックの力を手に入れたことによる快感や葛藤、人間とシンビオートの意志の境界線、ヴェノムの強さなど、『スパイダーマン3』では描き切れなかったヴェノムというキャラクターの魅力を徹底的に掘り下げて描いてくれるものと期待したいです。

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SMUの創造に至るまで

しかし、そんな中でファンたちを混乱させたのは、以前から公表されていた情報「ソニー主導でスパイダーマン・ユニバースを作る」「MCUとは無関係になる」というもの。これはソニー・ピクチャーズ映画部門会長トム・ロスマンや『スパイダーマン/ホームカミング』監督のジョン・ワッツによって強調されてきたものです。

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)はマーベルコミックスのマーベルスタジオ主導で、自社が権利を持っているキャラクター達を実写化し、綿密な計画のもとにクロスオーバーさせたことにより作られている世界です。

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しかしそんな中、マーベルで最も人気があり、最も有名なヒーローであるスパイダーマンはマーベルではなく、ソニー・エンターテイメントが権利を持っていました。マーベルとソニーの双方が協力しない限りは、スパイダーマンMCU参戦はまず不可能で、まずそんなことはありえないと思われていましたが……。

ソニーも慎重な判断を重ねたうえで、ついにマーベルとソニースパイダーマンの権利を共有することに成功!そしてついに、高校生のピーター・パーカー=スパイダーマンが『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に初参戦し、『スパイダーマン/ホームカミング』という単独作の公開までこぎつけたのでした。

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しかし、スパイダーマンは本当に特殊な例であり、それ以外のスパイダーマン関係のキャラクターたちは依然としてソニーが持ったまま。「じゃあソニーがぽんぽん他のキャラの権利も共有すればいいんじゃないの?」と簡単にはいかないのが大人の事情のようです……(´・ω・`)

そのような経緯があり、ソニーは独自にスパイダーマン・ユニバースもとい、正式名称:Sony's Marvel Universe略してSMUが本格的に始動するに至ったようです。ソニーの会長のSMUに関する詳しい見解については、以下の記事をご覧ください。

 SMUはそれまで「スパイダーマン・ユニバース」の名で通り、キャラクター達もスパイダーマンを核に作られたものばかりなので、スパイダーマンなくしてこのユニバースは成立しません。

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現在マーベル・スタジオでは『スパイダーマン/ホームカミング』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(原題)』『アベンジャーズ4(仮)』『スパイダーマン/ホームカミング2(仮)』スパイダーマン/ホームカミング3(仮)』の製作、それに伴うスパイダーマンの出演が決定しています。『ホームカミング2』は2019年7月5日に全米公開予定だそうです。

 

 

SMUの今後の予定

上記のSony's Marvel Universe に関して、ソニー・ピクチャーズとマーベル・スタジオ間で見解が全く違う(あるいはサプライズ情報を誤爆した)という経緯があり、ファン達は大混乱の渦の中。

なお、ソニー・ピクチャーズは『ヴェノム』を第1弾としてその後の作品制作の準備も進めているそうです。

SMU第2弾は『シルバー&ブラック(原題)』、ジーナ・プリンス=バイスウッド監督とリサ・ジョイ&クリストファー・ヨスト脚本によるもの。傭兵集団を率いるシルバー・セーブルと女泥棒であるブラック・キャットを主人公に据えた一本です(画像右がシルバーで、左がブラック)。

クリストファー・ヨストに関しては、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』『マイティ・ソー/バトルロイヤル』とMCUの作品を2本分手がけた経験がある人物ですね。

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これはまだ確定ではないですが、SMU第3弾として、クレイヴン・ザ・ハンターとミステリオの単独作も検討されています。クレイヴン・ザ・ハンターは元々野生動物のハンターでしたが、動物では物足りなくなり、スパイダーマンを獲物として付け狙う人間。ミステリオは元々特撮の技術スタッフで、犯罪者となった今ではVFX技術やVR技術を駆使した犯罪を行っています(画像左がクレイヴンで右がミステリオ)。f:id:the-Writer:20170625095309j:plain

 

このように、スパイダーマンヴィランを中心に映画化を進めているようです。

 

 

スパイダーマンはどうなるの?

このSMU、通常は主人公として取り上げられるヒーローではなく、ヴィランを映画化していくという挑戦的な内容です。それこそ誰もが知る赤と青のスーツのおしゃべりヒーローが少しでも参加してくれれば、一般客へのプロモーションも圧倒的にやりやすいのではないかと思います。

スパイダーマンの扱いに関しては、ソニー・ピクチャーズ側の希望は「できる限り自社の作品に参加してもらいたい」とハッキリしているものの、マーベル・スタジオ側がそれについていけていない印象があるので、両社の慎重な打ち合わせは必須です。

前述のとおり、僕はSMUにはスパイダーマンが不可欠と思っています。しかし、逆にSMUが無理にMCUとかかわらなくてもよいと思ってもいるのです。具体的に説明します。f:id:the-Writer:20170625151321p:plain

MCUではマーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギ氏が述べているように、2008年の『アイアンマン』から始まり、来年2018年の『インフィニティ・ウォー』がその頂点を成します。言い換えるならば、MCUの全ては『インフィニティ・ウォー』のために構築されていたのです。それはケヴィン・ファイギ氏を中心とした中枢が頭をフル回転させて綿密な設計を行った計画によるもの。なお、ある時期にマーベルはソニー20世紀フォックスに一部のキャラクター達の権利を売り渡しており、そのキャラクター達の映画は作れないので、MCUの計画には含まれません。

恐らく、2016年の『シビル・ウォー』におけるスパイダーマンの参戦は想定外だったのではないか、と思います。ファンにとっては超が付くほど朗報ですが、マーベル・スタジオにとっては同時に大問題でもあったはずです。

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スパイダーマンことピーター・パーカーがMCUに居るならば、彼に伴ってグウェン、MJ、オズボーン親子、ドクター・オクトパス、ヴェノムといったスパイダーマン関連のキャラクター達もMCUに居たことになるからです。この場外参戦は、MCUが作り上げてきた計画に、彼らがなぜ今まで出てこなかったかといった説明の努力や、最悪計画をぶち壊しにする可能性も秘めていた、と考えられます。そうなると、「『ヴェノム』(=SMU)はMCUには含まれない」というファイギ氏の発言もうなずけます。

しかし、トム・ホランドが演じるスパイダーマンはSMUに欠かせず、ある意味MCUとSMU唯一の接点にして問題点。それについて、僕の考えは先ほどの通り、「MCUとSMUは無理にかかわらなくても良い」です。

f:id:the-Writer:20170625151338p:plainSMUに登場する街、世界はMCUと共通なものの、わざわざアイアンマンを登場させる必要はないと思います。とにかくソニー・ピクチャーズはキャラクターや舞台、ドラマの描写に力を注ぎこみ、「アベンジャーズ」といったMCU(SMU)の日常にしみこんでいるであろう言葉は、セリフや小道具に最低限ちりばめておくのみ。実質MCUなものの、一見するとMCUらしくないように撮影する、という法にギリギリ触れるか触れないかの危ない戦法です。

これによく似た例を挙げると、ABC局やNETFLIXが展開するドラマ・シリーズでしょうか。『エージェント・オブ・シールド』『デア・デビル』『ジェシカ・ジョーンズ』『ルーク・ケイジ』『アイアン・フィスト』といったシリーズ、そのキャラクターたちは『アイアンマン』などの映画シリーズには登場しませんが、確かに世界観は同じですし、ちょくちょくMCUの用語や固有名詞が出てきますよね。f:id:the-Writer:20170625151942j:plainf:id:the-Writer:20170625151741j:plain

世界観がつながっているはずが、派手なクロスオーバーはないという微妙な平行線のようなこの関係は、ちょうどMCUとSMUの関係も同じであると思います。MCU⇔SMUのような相互関係でなく、MCU⇒SMUというほぼ一方的かつ平行な関係です。最も、MCUの映画シリーズとドラマシリーズの平行関係は、それぞれの製作体制やスケジュールの違いによるものですが……

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とにかく、現状はMCUMCUで、SMUはMCUの設定とスパイダーマンを借りつつも独自の路線を行くということになるでしょう。そもそも、膨大な数のキャラクターを設定的に破たんさせることなくクロスオーバーさせる、というのは至難の業で、既にMCUでいくつか矛盾個所が存在します。個人的に、この平行関係は何も嘆くべきものでもなく、結果的に適切な判断ではないかと思います。

その中で、スパイダーマンは「MCUからSMUへ出張する」異質な立場に立つでしょう。もしも『ヴェノム』にカメオ出演でもするならば、『ホームカミング』などのストーリーや時系列に抵触しない無難な描写で済ませるべきです。

スパイダーマン役のトム・ホランドは、「スパイダーマンが35歳になるまで演じたい」と希望も示しています。したがって、2017年の現時点で15歳の彼が、ヒーローとして成長していく様子をMCUで描き、その後はSMUで「親愛なる隣人」として新しい冒険を繰り広げるというパターンが考えられます。

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来年の『インフィニティ・ウォー』で、MCUは10周年を迎えますが、更に10年後の2028年にはどうなるでしょうか。そのころにはMCUのヒーローたちも世代交代がほとんど済んで新しい大河ストーリーが動いており、SMUはスパイダーマン・ユニバースともいえる世界の拡大も一通り安定し、MCUとSMUのクロスオーバーもあるかもしれませんね。 

(↑@artofgeorgeさんによる素晴らしいアート。ファンならやっぱりこんな画が一度は見たい!)

 

 追記:ファイギ氏の「『ヴェノム』はMCUには入らない」という発言を忠実に守るとすれば、MCUとSMUは別アースということになります(このマーベル・コミック関連におけるアースの概念については今度何らかの形で説明したいと思います)。スパイダーマン本人がSMUに顔見せでもする場合、それは彼がアース(次元)を飛び越えるということになり、おそらくそれはあり得ません。したがって、SMUにはスパイダーマンは顔すら見せず、やるとしても存在をほのめかす程度かなぁと。よってSMUもキャラクター達より高い密度で描く必要があります。『アメイジングスパイダーマン2』は、主に終盤でその世界の奥行きを示唆してくれましたが、SMUはMCUとはまた別の魅力を持つ、様々な楽しいアイディアが詰まったユニバースを形成していってほしいものです。

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(↑これはイメージです)

また、それでも僕はSMUとMCUの合流については捨てきれません。何も「SMU,MCUのキャラクターの豪華な交流を観たい」というよりは2つの世界はつながっているという「確証」がほしいだけなのです。様々な法的な制約や見込まれる利益、権利の壁で隔たれているこの状況……それはさながら、「電車に乗っていたら偶然同じ車両内に知り合いが乗っていたが、友達レベルまで親しいというわけではないから、特に声もかけないという何とも居心地が悪い空気」という感じです。

僕は、先ほど述べた「スパイダーマンMCUとSMUを行き来する」可能性を信じています。確かにスパイダーマンMCUに属していますが、やはり彼の相手となるべき友達や敵はSMUに大勢います。今回のスパイディはスーツが自動的にフィットし、サポート用にAIが搭載され、オマケに背中にパラシュートまで仕込まれているというおいしすぎる仕様。

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スタークという強力なスポンサーによる資金・技術の暴力(語弊)の結晶であるスーツは、観ているだけで楽しいですね。MCUならでは、といったところですがそのスパイディが(アメイジング2部作で実現できなかった)自らのユニバースを思う存分「探索」「拡張」することができれば最高だと思います。

(個人的にMCUのスパイディは、もうスーツの質感からして大好物なのです……)

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以上、ソニー・ピクチャーズ主導のSMUについての考察でした。

様々な情報が錯そうし、とにかく今は大混乱の時期です。そんな中でさらに20世紀フォックスが『ファンタスティック・フォー』の再々リブートを検討している、という情報も入ってきていたり……大混乱でもありますが、ファンの1人である僕にとってはとても楽しく幸せな時期です。とにかくこの高品質なアメコミ映画が互いにしのぎを削り、後にも大量に作品を待機させているので、情報を追いかけるだけで非常に大変(楽しい)です。この先、更にどのような展開があるのか、不安でもあり興奮も高まる今日この頃です。