『オール・ユー・ニード・イズ・キル』ラストシーン考察~ケイジとオメガの「あるもの」の争奪戦~
SF映画ではもはや定番となりつつも、下手すると根幹をなす設定が破たんしかねない「タイム・トラベル」という題材。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は「タイム・トラベル」をメインに、シンプルな描写とありそうでなかった斬新な展開で主人公ケイジの成長を描いた作品です。
今回は、そんな作品のラストシーンの展開について。もしかすると本編未視聴の方がいるかもしれないので、未だここで具体的な展開は書きませんが……(未視聴の方は即刻で本ページを閉じ、財布を握って近所のTSUTAYAもしくはGEOに走りましょう)
あれは決してご都合主義のハッピー・エンドではなく、一度見ただけではわからないであろう理屈が背景にしっかりと構築されていると思いました。今回は、そんな考察を記事にまとめてみましたよ(しかしあのラスト・シーンに至るまでの理屈の思考に累計何時間費やしたことか……)
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』について復習
ここで『オール・ユー・ニード・イズ・キル』について知らない方のために簡単に説明をさせてもらいます。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』とは、桜坂洋先生が書いSFライトノベル『All you need is kill』を原作にした映画です。日本のSFライトノベルを実写化したものです(大事なことなので強調させてもらいました)。
あらすじ:外宇宙からの侵略者「ギタイ」の侵攻によって、人類は滅亡の危機に陥っていた。人類は国家間の垣根を超えた「統合防衛軍」を結成、兵士たちは「パワード・スーツ」を着用してギタイと壮絶な死闘を繰り広げる。そんな中、ギタイのせん滅作戦に強制参加させられた軍の報道官ウィリアム・ケイジは特別なギタイを殺し、その血をあびたことから「時間を巻き戻す能力」を手に入れる。彼はその能力で同じ一日を何回も生きることになるが、そんな中で驚愕の真実を……といった感じ。
この主人公を、ハリウッドの大スターであるトム・クルーズが演じるわけですが……最初は超ヘタレです。どんな姑息な手段を使ってでも戦場送りを免れようとし、初めての戦場ではモタモタと動き回ってあっけない死を迎えます。あのトム・クルーズが、彼のイメージに似合わない役による珍しい展開なんですよ!
この主人公を、ハリウッドの大スターであるトム・クルーズが演じるわけですが……最初は超ヘタレです。どんな姑息な手段を使ってでも戦場送りを免れようとし、初めての戦場ではモタモタと動き回ってあっけない死を迎えます。あのトム・クルーズが、彼のイメージに似合わない役による珍しい展開なんですよ!
その後、「時間を巻き戻す能力」で死ぬたびに同じ一日をはじめから生きることになった彼。ひたすら戦場に出向いては死に、どうやったら死なないかという行動を頭に叩き込むハメになります。
いわゆる「ループもの」ながら、それを逆手にとった展開であり、ゲームのごとくセーブポイントからやり直すという行為を現実でやっているんですね。死んだ後いちいち最初から描いていたら尺が足りないですから、前回死んだところの直後からまたスタート、と編集のジェームズ・ハーバードさんがとても良い仕事をしており、飽きずにテンポよく映画を見進めることができます。
途中で、ある事情から「重傷を負ったら、ループ能力を失わないために潔く死ぬ」というルールが追加されます。重症で「待って、まだ頑張れるから!ちょ、まっ」と這いつくばる主人公の頭に、戦友のリタが容赦なく銃弾をぶち込むのはもはやコメディ。
とはいえ、そんな中で文字通り何百回も戦場を潜り抜けてきた(そしてそのたびに死んでいる)主人公が、成長し、面構えや風格が最初のころから圧倒的に変わっていくのも見どころ。肉体そのものは初期からずっと変わっていないはずなのですが、中身が変わるとこうも変化が目に見えるのでしょうか……(仲間たちが「アイツ本当に初戦か?」とあっけにとられるシーンはニヤリものです)
作品についてはこんなところでしょうか。
敵についても知る
次に、今回の敵であるギタイについての解説です。
ギタイ……地球外生命体であり、侵略生物。非常に俊敏・凶暴・協力、素人だと一瞬でその触手?で体を貫かれる。「体液(主に血液)を浴びると、ギタイとしての特性や能力が移る」という性質がある。
ドローン……オレンジ色の個体で「ザコ」ポジション……というものの、一体でもメチャメチャ強い。たった一体始末するのにかなりの労力(と犠牲)を要する。それこそ無限に湧いて出てくるからやっかいである。
アルファ……ギタイの中でもレアな種であり、アルファが死ぬと後述のオメガが感知し、オメガの能力であるタイム・ループが自動的に発動する。
アルファの能力は「死ぬと時間が巻き戻る」と説明している人もいますが、僕は「死ぬと(オメガが自動的に)時間を巻き戻す」と思っています。
オメガ……全ギタイのボスであり、唯一の頭脳。言い換えればオメガ以外のギタイは全てドローンである(アルファは不明瞭)。よってオメガはギタイ達を通して戦況を見、考え、指令を出している。たった一つしかない中枢のオメガの死=全ギタイの死である。「時間を巻き戻す能力」=「タイム・ループ能力」を持っている。これは上級ギタイのアルファが殺されると自動的に, あるいは自分の意志で発動する。これにより、ギタイは自分たちに不利な状況を幾度となく「なかったことにしてきた」と思われる。
そして、問題のラストシーン。
ラスト:オメガを殺した後、ケイジはその血液を浴びた途端、今まで目覚めていたポイントより更に前のポイントで覚醒し、さらになぜかその時点でギタイが全滅していた……彼にとっては仲間たちも死なずに全員生きていることになり、恋仲にもなりかけたリタと何百回目あるいは何千回目の初対面を果たし、ケイジの笑顔で物語は幕を閉じる。
以上、僕なりの本映画のおさらいでした。以降は、タイム・ループ能力の考察、そしてストーリーを追いながら考察を絡めていこうと思いますね。
タイム・ループ能力の再定義
タイム・ループ……オメガのみが持つ特殊能力。それはアルファ、もしくはオメガ自身の肉体が死ぬと自動的に時間を巻き戻す事。これにより、「これから○○すると失敗して死んじゃうから△△しよう」というゲームでしかできないような行為が、現実で可能となる。当然、タイム・ループしている本人以外は普通に時間を過ごしているので、タイム・ループが起こったことすら認識できない。
ここで、僕の解釈はループ能力とは「自分以外の世界全ての時間を巻き戻す」という壮大なモノではなく、「過去のある時点まで、自分の意識を転送する」というものです。ある時点とは、
①アルファが死亡した場合……アルファが目覚める時点
②オメガが死亡した場合……オメガが目覚める時点
の2通りです。
ここで重要なのが、タイム・ループには「主導権」というものが存在すること。「主導権」を有していれば、タイム・ループをしてもそれまでの記憶をすべて保ったままでいられる。逆に「主導権」を有していなければ、前述の通りそもそもタイム・ループが起こったことすらわからず、ループによる介入になされるがまま……。
ストーリーを追って解説
基本的に、この「主導権」はギタイ側が持っており、それによって統合連合軍との戦いで様々な失敗を数え切れないほど経験してきた事でしょう。失敗するたびにオメガはその経験を持ったまま過去に(自分が覚醒した時点まで)さかのぼり、戦局を幾度となく覆してきました。そして、オメガは最終的に連合軍を全滅させる罠を仕掛けることに成功します。
しかし、ここで想定外の事態!人間のケイジが、アルファを殺し、その血液を浴びたことにより、タイム・ループの「主導権」を得てしまいます。これにより、タイム・ループは彼の死によって自動的に発動され、「主導権」はギタイ側には無いため、オメガ側には、ループが自分たち以外の手によって起こっているという事すらもわからないのです。また、ケイジが死ぬたびに目を覚ますポイントは、なぜ手錠をかけられて基地で目を覚ますところなのか。アルファから能力を移されたことから、アルファが覚醒した時点に最も近い、自分が意識を取り戻した時だから、と思われます。
ただし、途中でなぜかオメガが人間側にタイム・ループの「主導権」が渡っていることに気付きます。これは、タイム・ループ自体はオメガが行っている、という事を考えると、おそらくタイム・ループはオメガの肉体に負担をかけるのだと思われます。人間で例えると、タイム・ループを行うたびに右足が筋肉痛になる、という具合でしょうか。
オメガは、自分が認識している限りはアルファすら死んでいないのに、なぜかタイム・ループによる疲労がたまっている事から、自分たちギタイ以外の何者かにより、ループの「主導権」を奪われていることに気付くのです。その人間にはギタイの特性も多少は移っていることから、「自分(=オメガ)がいる場所のヴィジョン」を見せることにします。しかしこれはウソのヴィジョンであり、実際はアルファとドローン等の部下を待ち伏せさせておいて、一旦人間を生け捕りにする算段です。血液を浴びると能力が移る、という特性から、生け捕りにしたケイジから血液を奪って能力と「主導権」を奪還するつもりだったと推測されます。
しかし、実際にはケイジの機転により失敗。あろうことか、ギタイを研究して作ったメカにより、オメガの真の居場所を逆探知されてしまいます。なお、この後すったもんだあってケイジは輸血されることによってタイム・ループの能力を失い、絶対に失敗できない状況に追い込まれます。ケイジがループ能力を失う→「主導権」はギタイに戻ったことで、アルファやオメガを殺したとしても、こちらの動きを読まれて全滅に追い込まれるのは時間の問題だからです。
ケイジは戦友のリタ、半信半疑気味のJ分隊と共にルーブル美術館に殴り込みをかけます。最終的に、ケイジは水中でアルファに腹を刺されつつも、オメガの爆殺に成功。なお、オメガは肉体がやられたのでタイム・ループが発動して意識が過去に転送、「主導権」も有しているのでこれで完全に万事休すかと思いきや……
ここでまたもや想定外の事態。水中故、流体であるオメガの血液がケイジに接触、まとわりつき、次の瞬間。ケイジはいつも目覚めていたポイントより前のポイントで目覚めます。この時、血液を浴びると能力が移る、というギタイの性質により、死を迎える直前にケイジは土壇場で「主導権」を獲得したと考えられます。
オメガはだくだくと流血しつつ、過去に意識が転送されます。しかし、途中で「主導権」を奪われたことでその記憶や意識の引継ぎが打ち切られ、転送先である過去で完全なる死を迎えたのでしょう。一方でケイジは全ての記憶を保ったまま、オメガが覚醒した時点に一番近い、自分が覚醒する時点(それが映画冒頭でも描かれたヘリの中)で目覚めることとなります。前述の理屈で、オメガは死亡したのでそれに伴ってギタイは全滅、結果として仲間も全員生きているというハッピーエンドを迎えることとなったのです。
続編(あるいは前日譚)についても少しだけ
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』はRotten Tomatoes(映画批評家たちによる評価をまとめたサイトで、辛口なことで有名)では、91%という高評価を得ている作品です。同じ時間を繰り返し生きる、手塚治虫の『火の鳥』でも描かれた呪いのような宿命を、観客を飽きさせずに着実にストーリーを進めていった今作。
続編の製作計画はすでに動き出しているようです。
・原題はLive Die Repeat and Repeat(一作目のキャッチコピーから発展したもの)
・一作目の監督を務めたダグ・リーマン曰く「続編であり、前日譚」「続編の作り方に革命を起こす」
・公開日は未定
元々本記事の執筆に至ったのも、「続編製作計画が始動した」というニュースと、ラストシーンで感じていた疑問が合わさったことによるものでした。その記事によって自分の中の理解もしっかりと固まったので、もう安心して続編を迎えられます……
以上、ハッピーエンドのラストシーンに至るまでの考察でした。