カイロ・レン考察 ~不気味な怪物か、見捨てられた子供か~

カイロ・レン。

それはディズニーが製作するスター・ウォーズにおける最初のヴィランであり、『エピソード7』-『エピソード9』からなる続三部作の悪役です。2005年の『エピソード3』を以って、ジョージ・ルーカスの手でSWサーガは一旦完結したという背景があるだけに、それをわざわざ再始動させるからには相応の動機が必要です。f:id:the-Writer:20181117162851j:plainSWの物語は悪役も非常に大きな比重を占めています。『エピソード1』-『エピソード6』までがアナキン・スカイウォーカーの物語というとらえ方が可能なだけに、悪役は物語を牽引していく非常に重要な立ち位置です。また、映画に加えて小説やゲーム等のスピンオフ作品で数多の悪役が存在していました。『エピソード7』には並みならぬ重圧がかかっていたのは明白だと思います。余談ですけど、アダム・ドライバーが悪役としてキャスティングされたと聞いた時の、一見すると悪人に見えないその顔がどのような変貌を見せてくれるのかという期待と「名前がカッコイイな」という感想を覚えていますね。

初の予告編映像が初公開された時には、全てのファンが同じ興奮に包まれたのではないでしょうか。映像中で雪が積もったどこかの暗い森の中、不安定な足取りで衝撃の赤い十字のライトセーバーを起動させるフードを被った後ろ姿。全ては『エピソード6』で終わったはずなのに、闇の中で輝く赤色のセーバーがまた新たなる悪が誕生してしまったことを予感させました。

f:id:the-Writer:20181116193910j:plainその後、トレーディングカードや公開されていく予告編によって彼の情報が徐々に明らかにされていき、ついに『エピソード7』の公開です。
間違いなく、観客は唖然としたことだと思います。開始早々煽られる、癇癪でライトセーバーを振り回す、あのハン・ソロレイア姫の息子、意外と弱い……。言動だけでも色々と特徴的なのに加え、カリスマ性どころか明らかな不安定さを持っている悪役。未熟な人間です。それに暗黒面に転向した理由、現在の行動原理もまるでわかりません。わかりやすい悪役だったダース・ベイダーとは色々と違い、「そもそも悪役としてふさわしくないんじゃないか」という声もありました。

しかし、公開当時に異様な早さでカイロ・レンの本質を突いた記事が日本で公開されました。アダルト・チルドレン……端的に言うと親によって心に深い傷を負ってしまったまま成長した人間のことです。カイロ・レンが「心に傷を負った少年」である、という認識の有無で『エピソード7』及び『エピソード8』の見方が圧倒的に異なってくると思うのです。しかし、この認識は一般にはどれくらい広まっているのでしょうか?f:id:the-Writer:20181116110819p:plain『エピソード7』にて脚本を担当したJ.J.エイブラムスとローレンス・カスダンは、サーガの再起動と完結を行う重要人物として、カイロ・レンという敢えて不安定で未熟なキャラクターを創り出しました。今思うとこの二人の意図は恐ろしく先を読んでおり、非常に興味深い決断であったと思います。

この記事の構想は大分前から練っていたのですが、続三部作の中心人物なだけにそうそう気軽に扱える内容でもなかったんですね……。今回はついに、続三部作を担うカイロ・レンというキャラクターを、僕なりに分析・考察していこうと思います。少しずつ明かされているカイロ・レンの過去に関する情報は、『エピソード7』,『エピソード8』,その小説版やビジュアル・ディクショナリー、その他のスピンオフの書籍からです。一部ネタバレも含みます。これはあくまで僕の考えや感じたことですので、当然この解釈が正しいと主張するつもりではありません。なお折角この記事を読んでくださっている方にとって、SWの楽しみやカイロ・レンの理解を深める手助けになれば幸いです。また、今回の記事は非常に長いです!お時間があるときにじっくり読んでいただければと思います。

 

見捨てられた少年、ベン・ソロ

銀河帝国が誕生し、前時代以上に人々が苦しめられる日々。それに対して立ち上がった人々の希望という火花は年月をかけて燃え広がり、寄り集まり、反乱同盟軍としてエンドアの戦いでついに銀河帝国を倒しました。オルデラーンの王女であり正義を信じて戦うレイア・オーガナと、コレリア出身の内に正義を秘めたアウトローハン・ソロの間に生まれたのがベン・ソロです。

カイロ・レンの本当の名前はベン・ソロ。彼の運命は、実は事前にフォースの意思である程度決定されていました。レイアはベンをお腹に宿している間にある夢を見ました。フォースを通じて見るベンは光の玉であり、その中に影がちらつき始め、最終的に光と闇が混ざり合う……というものです。ベンの血筋を紐解いていくと、「フォースにバランスをもたらす者」でありクローン大戦の英雄となったジェダイ、ナブーの元・王女/元老院議員、オルデラーンの王女/元・元老院議員、ケッセルランを12パーセクでやり遂げた稀有の名パイロットと、身内にとんでもない人しかいないんですね。更に母の兄、つまり叔父はその父に匹敵する潜在能力で皇帝やベイダーと戦った最後のジェダイであり、帝国の崩壊に大きく貢献した人物です。

帝国に愛するもの全てを奪われたレイア、今まで家族という物を知らなかったハンが両親というだけでもベンの誕生は非常に喜ばしいものだったと思うのです。ハンの友人であるランド・カルリジアンから誕生祝ももらいましたし、人間よりも圧倒的に寿命が長いチューイにもハンに子供ができたのは朗報のはずですし、やはりベンはあらゆる人々から祝福されたのではないでしょうか。新共和国の臨時首都となった惑星シャンドリラのアパートでソロ一家は生活を送ります。

f:id:the-Writer:20181117171012j:plain(↑『Backstories: Princess Leia: Royal Rebel』より)

ハン・ソロ』のスピンオフ小説『ラスト・ショット』では、ベン・ソロ2歳の時代が描かれています。ベンはよくハンになついていた一方で、家事ドロイドが日中かなりの長い時間をベンと過ごしていることを示唆する描写がありました。当時の情勢を考えると、戦後に突然銀河を統治する政府が変わり、その影響力も大きく変化した銀河は当然混乱に陥ります。二人とも反乱軍の重要人物なので新共和国の臨時政府にも関わらざるを得ないはずです。特にレイアは元老院議員として政治の知識と経験もあります。やはり、夫婦共働きという形にならざるを得ず、ベン・ソロにずっとつきっきりになることはかなわなかったと考えるのが自然です。f:id:the-Writer:20181117165728p:plain

(↑こちらTwitterやPixiv等で活躍なさっているイラストレーターのnohoさんの作品を引用させていただきました)
小説版『エピソード8』によれば、幼少期のベンのお気に入りのオモチャはハンのダイスであり、見せびらかすこともあったのだったとか。その一方で、うちに眠るフォースの能力が発現するようになり、その扱いに困ったハンとレイアが不安そうにする会話をドア越しに感じ取っていたこともあったそうです。描写されたのはフォースで回りの物を壊してしまうといったものですが、僕はその他にもベン自身の不安をあおるようなフォースの現象はあったのではないかと思います。

今ではレジェンズ設定ですが、例えばシス卿ダース・シディアスの師であるダース・プレイガス。ムウンである彼の本名はヒーゴ・ダマスクと言いますが、ヒーゴは幼年期より自身に何か不可解な力が眠っていることに気づいており、5歳のころ自分に気に食わない事をした友達に催眠術(マインド・トリック)で飛び降り自殺をさせたそうです。なお僕はベンがそのような攻撃的な目的にフォースを使ったとは決して思いません。

しかし、フォース感応者は少なくとも生きとし生けるもの全てに流れるリビング・フォースの流れを感じ取ることができます。すなわち、自分の意思にかかわらず周りにいる人の漠然とした考えや感情といったものを感じ取ることができたのではないか、と思うのです。この性質は『ローグ・ワン』のチアルートの「殺意を持つ者、暗黒のフォースが包み込む」という発言が裏付けになると思います。普通はコミュニケーションにおいて相手の頭の中を見ることはできず、この「壁」に助けられることも往々にしてありますよね。しかしベンにはそれが適応されず、幼少期から相手の考えていることが「流れ込んできてしまう」のは苦しみだったのではないかと思います。f:id:the-Writer:20181117171201j:plain『エピソード5』が特に顕著ですがハンとレイアはよくケンカをします。本人たちにとっては日常茶飯事であり、いつものコミュニケーションの形の一つ……といったつもりでもベンにとっては違います。子供にとって、家族同士が互いにいがみあうのは大きなストレスです。自宅に一緒にいてくれるはずの両親があまりおらず、やっと3人そろったと思ったらケンカ……。それに加えてフォースの理解が乏しい両親の、自分に対する恐怖や不安まで感じ取ってしまいます。

レイアは聡明なオーガナ夫妻に育てられたので、自宅では母親としてそこまで問題はなかったと思います(あくまで個人の意見です)。問題はハンです。彼は過去の経験から自分の感情を素直に表現することができなくなっています。『エピソード7』のファルコンのコックピットでレイが「コンプレッサーを迂回させた」と笑顔で報告した時、「ハァ」とそっけない返事をしてまるで褒めないハンが、まさしく幼年期のベンへの対応を示唆しています。例えばベンがアカデミーで見事な操縦の腕前を見せたり、試験で優秀な点を取った時にハンは欠かさずに惜しげなくベンのことをほめたたえ、「お前のことを誇りに思ってるぞ」とほめたりしたでしょうか?ただでさえあまり家にいることがないハンは、それ位でもしないと埋め合わせができないはずがちゃんとベンに対して向き合っていなかった可能性が高いです。f:id:the-Writer:20181119095351j:plain(↑参考までにアーソ親子です。ゲイレンは一時期カイバークリスタルの研究にのめりこんで家族が二の次になったこともありますが、結局ちゃんと一人の父として一人娘を全力で愛しました)

ハンはしっかりベンを愛しています、これは確かです。しかしその過去を振り返ると、詳細不明ながらコレリアの貧しい家庭に生まれ、仲は良くなかった実の父とは死別。10歳から独りで犯罪で生計を立て、やっと見つけたと思った父親は最終的に自分を裏切り、自分の手で殺さざるを得ませんでした。勝手な想像をすると「子供は放っておいてもちゃんと育つ」と思っていた節があった可能性があります。ハンは、ベンに対する積極的な愛情表現が足りなかったのではないでしょうか?若き頃に比べると笑顔が控えめににあり、仏頂面なことが多いハン。やはりベンの中には父親は厳しく、何を考えているかわからない怖い人……という認識ができていてもおかしくありません。
ベンには親にちゃんと愛されて、必要とされていると感じることができませんでした。10代のころには次第に両親に対して疑念がわき始めたのだと思います。「自分はそもそもなぜ生まれてきたのか」「ママとパパに愛されてないならなぜ僕は生きているのだろう」と考えたかもしれません。最も身近な存在であり、自分を無条件に愛してくれるはずの両親がしかるべき義務を果たしてくれない。自分に向き合い、話し合ってくれないなら自分からも口を開く必要はない。今こうして自分が苦しんでいる間にも母は自分そっちのけで仕事にいそしみ、父は家におらずいたとしても自分の話にとりあってくれない。家にいる時の自分に対する態度を考えると、特にハンに対して怒りの矛先が向いたと考えるのが自然です。自分がこれだけ苦しんでいるのにいつも無関心を貫く男……こうして今まで愛情を渇望していた心はハンを見下げ果てる一種の怒りに変わっていきます。さいころ父愛用の船ミレニアム・ファルコンには何度も乗せてもらったと思います。敬愛していた父が自由自在に飛ばす専用の船……このように思い出と憧れが詰まっていたファルコンも、ハンに対する反感に伴って嫌悪感を催す忌むべきものになったのではないでしょうか。

レイアやハンはいつの間にかベンとの間に深い亀裂が走っている事に気づきますが、そもそも心を開いてくれないベンは遠ざかっていく一方です。ベンは「別に自分はここにいても良いんだ」という自己肯定感、愛情や居場所が得られないまま成長していったのではないでしょうか。社会的動物である人間に上記の要素は健全な成長に不可欠です。思春期では、自分がどうあるべきかに悩みつつ、その性格や言動が形成されていきます。ベンは精神的な成長を担う重要なこの時期に、健全なルートを歩むことができませんでした。その心はストレスに対して耐性を持たず、繊細で不安定なものになりました。自身の沸き立つ感情の制御がきかず、どこかがまだ子供のまま歪んだ成長をしていきます。感情表現は乏しくなり、口調も内面を悟られないような無機質なものになっていくのです。そうすれば相手に自分の手の内を読まれたり、弱みをさらけ出すことはありません。自分をより有利で安全な場所に置こうとする心理的防衛機制なのですね。

そして両親が自分の強まる一方のフォースに関して何の手立てもないことが事態を悪化させます。いつ頃からかは不明瞭ですが、あのダース・シディアスよりも邪悪で強力な暗黒面のフォースの使い手がベンにフォースを通じて接触を始めます。スノークにとってベンの心に巣食い、家庭環境から徐々に悪化していった闇はまさに棚から牡丹餅。利用しない手立てはありませんでした。

f:id:the-Writer:20181117172704j:plain(↑こちらはQueenStardustさんによる作品です)
SWではフォースの暗黒面に熟達していればいるほど、その危険な世界に他人を引きずり込む術にも長けています。スノークは真の正体を巧みに隠しつつ、ベンに自身がフォースに熟達した人物であり、ベンの個人的な師になれるとつけいりました。「お前の両親はお前の持つ力を何もわかっていない」「その潜在能力はかのベイダー卿にも匹敵するものだと感じる」「暗黒面は修羅の道ゆえに孤独な者こそが孤高の覇者となれる」……といった感じでフォースの暗黒面の魅力と両親への不信を植え付けていきます。後にベンと、遠く離れたどこかの惑星にいるレイをフォースを通じて会話させるような芸当が可能なスノークです。ベンの心に語りかけたりその頭に入り込んで弱点を読み取るなどぞうさもないと思われます。こうしてフォースを通じてベンと交信を重ねることで、スノークはベンの信頼を勝ち取っていきます。

f:id:the-Writer:20181117194625j:plainスノークとしては、ベン・ソロが血筋ゆえに秘める強力な潜在能力がほしいのですが、ただ漠然と「暗黒面は強い」と繰り返すだけでは説得力がありません。よって、具体的な目標として最後のシスであるベイダーの物語を都合よく曲解してベンに吹き込みます。「ベイダーは元々光を盲信するジェダイだったが、ジェダイの表層的な教えに失望した彼は暗黒面に転向した。それを通じてフォースの神髄に触れたからこそ、あそこまで強大となって伝説として名を遺した……」などと言ったのでしょうか。ただし、この時点ではベイダーの正体は告げません。なぜなら、もしスノークがこの時点で帝国残党を支配していたなら、後のために大きな「爆弾」を仕掛けているからです。f:id:the-Writer:20181119090724j:plainベンにとってはよくわからないフォースの領域から突然救い主が現れたため、最初は疑ってもいても身近に頼れる人間がいない中では、スノークに惹かれざるを得ませんでした。やはり自分を認めてくれ、安心して心を開ける親という存在を欲していたために、徐々に傾倒していったのではないかと思います。そんな信頼する彼に吹き込まれた通り、ベンは自身を孤高のベイダーに重ねることでその力、人物像にあこがれるようにもなりました。前述のとおり、正常な人格形成がままならないのに加えてこれまた歪んだベイダー像を心の支えにしていくのでますます悪化していきます。まさしくSWのアダルト・チルドレンです。レイアとハンはベンが心を閉ざしていく一方で、どうやらスノークという得体のしれない人物がフォースを通じて語りかけている事、突然ベンが血縁関係があると知らないはずのベイダーに興味を持ち始めたことにより、なおさら自分たちの手には負えないと感じるようになりました。

(↑『エピソード7』MovieNEX特典映像の一部ですが、カイロという人物を知るのに重要な手がかりが語られています)

恐らく同時期、ジェダイの失われた伝説や知識を求めて銀河各地をR2-D2と共に旅していたルーク・スカイウォーカーがレイアとハンに連絡を取ります。十分な量の教材を集めることに成功したので、いよいよ新しいジェダイ・オーダーを復興させたい。そのためにはまず弟子になってくれる人物が必要だと。『エピソード8』のビジュアル・ディクショナリーや小説版によれば、このルークの一番弟子をレイアは新しい家族と政治のために断ったそうです。とはいえベンの扱いに頭を悩ませていたレイアに、これはまさに鴨葱でした。自分には無理でもきっとルークならフォースの教えを通してベンの心を開いてやれる、暗黒面が広がり始めているベンでもルークならきっと連れ戻すことができる……と。しかし、ハンはやはり何かがおかしいと勘づいていたと思います。長年のアウトロー生活で数々の策略を聞き、狡猾な手を巡らせた権力者を目にしてきました。ここでベンを手放すともう手遅れになるのではないか……。f:id:the-Writer:20181116111401p:plainしかし、最終的にレイアとハンはベンをルークに引き渡すことに同意します。これがベンにとっての決定打になったのは間違いないです。「ついに、僕の両親は責任を放棄して僕を捨てた」と。どうにかしたいがどうすればいいのかわからない二人、両親を糾弾したい気持ちとやはり踏みとどまって自分と向き合ってほしかったベン。それでもベンはわずかな希望にすがります。「ルークおじさんなら自分の父になってくれるかもしれない。何もしてくれなかった両親とは違い、ルークはジェダイ・マスターだから。ルークもかつて自分と同じように両親を失ったから」とでも思ったのかもしれません。

f:id:the-Writer:20181116214618p:plainこうしてベンの第二の人生が始まります。どこかの惑星で、ニュー・ジェダイ・オーダーとして他の12人の生徒とフォースについて学ぶ日々。自分で作った初めてのライトセーバー、その核となるカイバー・クリスタルが自分と共鳴して発した色は青。祖父にあたるアナキン・スカイウォーカーがかつて使っていたのと同じ色です。しかし、スノークは手をゆるめません。そもそもベン・ソロに取り入り始めたのも、ルークが始めようとしているニュー・ジェダイ・オーダーを崩壊に導くための策略でした。スノークはベンの中の暗黒面を秘密裏に肥大化させていきます。敢えてルークにもそれを感じさせることで、着々と手はずは整っていきます。そしてついに、『エピソード7』から数えて6年前、ベン23歳の年にあの夜がやってきました。f:id:the-Writer:20181116214539j:plain実際にベン殺害未遂の際にルークはどんな心情だったのかは過去記事に書きましたが、孤独によって憔悴していたベンの目には、ルークは殺意と憎しみに顔をゆがませた裏切り者としか映りませんでした。ベンは人生で二度目の大きな絶望に叩き落されます。あれだけ信じていたルークにも裏切られた。平和を尊ぶジェダイなど嘘っぱち。もう誰も信用ならない、自分がついていくのはスノークだけ……。「師に見捨てられ、怯えた少年」は事前に話をつけていたほかの数名の仲間と共にニュー・ジェダイ・オーダーを壊滅させました。f:id:the-Writer:20181117173027j:plainスピンオフ小説『ブラッド・ライン』によれば同時期、レイアは新共和国の元老院議員として精力的に活動しており、実質の最高議長である第一議員選出選挙を迎えていた頃でした。しかし着々と力をつけていた帝国残党=ファースト・オーダーの陰謀により、レイアは失脚せざるを得なくなります。「レイア・オーガナはダース・ベイダーの実の娘である」という元老院での告発。ベイダーは冷酷な恐怖政治を行う銀河帝国の象徴的存在であり、銀河各地に恐怖と憎しみを植え付けました。f:id:the-Writer:20181117194259j:plainそのベイダーとの血縁関係の判明は誰であれ聞かされれば疑念と衝撃に飲み込まれます。『エピソード5』でのルークの拒絶反応が良い例です。それも帝国時代の苦しみを知っている人間なら、ベイダーの血を受け継いでいる事への嫌悪、その事実をずっと隠してきた事への不信感は当然頂点に達します。恐らくホロネットのニュースでも通じてこの衝撃の真実は銀河中に知れ渡ったのだと思いますが、特に大きな衝撃を受けたのはやはりベンであると思います。あの二人は親としての責務を果たさないばかりか、こんな重大な秘密をずっと自分に伝えようとしなかったと。これもまた、「あの二人は自分と向き合おうとしてこなかった」という認識をさらに強くします。そしてスノークがやたらベイダーについて自分に教え込んできたのも合点がいったのでしょう。様々な感情が入り混じった、憤然とした渦がベンの中にできました。そのとても一言では言い表せないごったまぜの複雑な負の感情こそが、彼の暗黒面の原動力なのだと思います。f:id:the-Writer:20181127090615j:plainベンはこうして暗黒面に転向することとなり、カイロ・レンが誕生しました。今まで周りの人間に裏切られ、傷つけられ、虐げられてきた弱い自分はもういない。あの両親の血を継ぐ自分はもう死んだ。今の自分は暗黒面のフォースを味方につけたカイロ・レンだ。自分の望みを自分の力を以って実現できる戦士。あの伝説のベイダー卿の血を引く自分こそが彼の「ジェダイを滅ぼす」という崇高な使命を受け継ぐと。

 レンの騎士団の歴史や『エピソード8』でのスノークの「ふざけたマスク」発言を見るに、恐らくカイロ・レンという名前はスノークから与えられ、象徴的なマスクは自分で作った可能性が高いと思います。スノークに与えられた歪な知識を基に築き上げた、やっと自分を発揮できる人格がカイロ・レンなのかもしれませんね。『エピソード8』の監督・脚本を務めたライアン・ジョンソンは以下のように語ります。

~(前略)~カイロは前進するために、自分自身を過去から切り離そうとします。反抗的ですよね、自分の出自から逃れるわけですから。過去を切り離して、“僕はなりたい自分になれるんだ”と言うんです。こういうことは、多くの人が人生のどこかで体験することですよね。

出典:『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は決して過去を葬らない ― 監督が語るテーマへの思い

 フォースの暗黒面の使い手のライトセーバーの光刃は赤色です。その理由は、ライトセーバー製作時に使うカイバー・クリスタルは誰かが使っているものを奪い取り、それに自分の負の感情を注ぎ込むことでカイバーが耐え切れずに「流血」し、赤色に染まるからとされています。f:id:the-Writer:20181116105801j:plain青色に染まっていたカイバーを流血させるほどにベンの中に蓄積して蝕んでいた恨み、怒り、悲しみ等の感情。セーバーの柄の形状をみるに、ジェダイ時代に使っていたものを改造したものと思われます。このカイロの内に業火の如く燃え盛る激情を表しているかのような不安定な光刃、そしてその赤色はカイロの心がこれまでずっと苦しんできて流してきた血そのもの、と言えるのかもしれませんね。

 

創り出された怪物、カイロ・レン

ここからは僕なりに『エピソード7』,『エピソード8』での彼の解釈と、『エピソード9』で彼が迎えるべき結末を漠然としたものながら書いていこうと思います。

カイロの反乱を機にニュー・ジェダイ・オーダーは崩壊。ルークは自分の責任を苦に未知領域に位置する惑星オク=トーに失踪。最初のジェダイ寺院が建つその星で、ルークは自身と共にジェダイを終わらせる事を決意します。その一方で、ニュー・ジェダイ・オーダーを創立するまでにルークはジェダイの失われた伝説やフォースの新しい知識を求めて、銀河各地を飛び回っていました(小説版『エピソード8』によればスノークにも会った事もあったのだとか)。f:id:the-Writer:20181119090923p:plainその旅の中でルークは数多くの盟友を作りましたが、その一人がロア・サン・テッカです。新共和国と帝国残党が最後の戦争を繰り広げた惑星ジャクーの村の長を務める彼は、噂か過去のルークの言動から「ルークは最初のジェダイ寺院に旅立った」と判断したのだと思います。銀河にフォースのバランスをもたらすためにジェダイは必要、よっていつかルークには戻ってもらわなければなりません。よって既存の宙図にオク=トーの座標を追加し、それをルーク・スカイウォーカーがいる目的地として設定した「スカイウォーカーの地図」を製作したと思われます。ただし、それはR2-D2が『エピソード4』でデス・スターのコンピューターにアクセスした際に入手した銀河全体の宙図と組み合わせないと、宙図として機能しません。なぜなら、銀河帝国は皇帝パルパティーンの意向から未知領域の開拓を進めていたからです。オク=トーも未知領域に位置する事から、そこの調査結果も記録した帝国の宙図でないとそもそも宙図として使えなかったからだったのだと思います。f:id:the-Writer:20181119091331j:plain最後のジェダイであるルークを殺せば、フォースのバランスは一時的にでも闇に大きく傾き、スノークに有利に働きます。しかし様々な出来事が一挙に重なって全てに耐えあぐねたルークはあろうことか自身をフォースから閉ざしました。これではいくらフォースに精通しているスノークといえど手も足も出ません。しかし、ファースト・オーダーはジャクーにスパイでも送り込んでいたのか、村から漏れ出た噂はスノーク、そしてカイロ・レンの耳にも伝わります。カイロ・レンにとっては信頼していたのに自分を殺そうとした人物、ジェダイ・マスターと名乗りながらシスの如く寝首をかいて裏切った叔父なので、まさに絶好の復讐の機会です。そうして『エピソード7』冒頭につながっていくのではないでしょうか。f:id:the-Writer:20181119091357j:plain『エピソード7』劇中でスカイウォーカーの地図を持ったドロイドはジャクーに足止めされました。これまたチャンスとして兵を差し向けますが、脱走兵と謎の少女によって失敗。更にスノークの情報によれば少女と地図はあの父親ハン・ソロと共にミレニアム・ファルコンにあるとのことです。口では強がっても、やはり動揺はしたというのは想像に難くありません。奇跡のような運で手を逃れる少女……惑星タコダナで何とか捕らえ、スターキラー基地で尋問した際、初めてカイロとこの少女レイとの間に不思議なつながりが生まれます。カイロはスカイウォーカーの地図の情報を得るために、レイの精神にフォースで侵入を試みます。ろくに会話もした事のない相手がずっと秘密にしてきた願望、抱えてきた恐れ、生きてきた記憶をすべて舐めとるように見たわけです。この過程で、カイロは意外にも「恐れる必要はない、俺も感じる」とレイを気遣う姿勢を見せたりして一応人間としての成長を見せたり、「ハン・ソロか。自分が持った事のない父親を重ねている。失望するぞ」と思わず内面がポロッと口をついて出たりしました。f:id:the-Writer:20181127090913j:plainしかし、カイロに匹敵するレベルの潜在能力を持つレイは無意識のうちにそれを逆手に取り、一方通行のつながりを相互通行にしてしまいました。これによって、カイロが押し殺していた祖父ほど強くなれないという恐れや機械のような表情で隠してきた内面がレイに知られてしまいます。ベイダーの血という一種の最強の武器を持っているはずなのに、生まれ持っての才能か不安定な気質ゆえか思うように力を発揮できない鬱憤はあったはずです。しかし本当の問題はそれを目当てにカイロを拾ったスノークの失望でしょう。元々の家庭環境によって人の自分に対する反応を察するのは人一倍敏感なカイロです、薄々と失望の色が広がるスノークの感情も感じていたことだと思います。f:id:the-Writer:20181119150018j:plainカイロにとってファースト・オーダーとは所属できる居場所なのだと思います。ファースト・オーダーはかつてベイダーが所属した帝国の遺産から復活しており、自分のマスターであるスノークが率いていますし、小説版では「我々こそが銀河に秩序をもたらす」という理念に賛同もしているからです。スターキラー基地でその目的を邪魔しようとするレジスタンスを壊滅させようとする直前、ある意味彼にとって最大の障壁が現れます。父ハン・ソロ。アナキン、ルーク、ベンというスカイウォーカー男子はそれぞれ、何らかの形で父親との大きな葛藤を抱えているのだと思います。スノークに吹き込まれた通り、父殺しとは暗黒面において大きな前進となるでしょうし、それはカイロが過去に抱いた憎しみとも一致します。しかし基地の橋の上でゆっくり歩み寄ってくるハン・ソロは自分の記憶とは違い、真摯に語りかけながら自分を本来あるべき場所に連れ戻そうとしています。既にスノークの自分に対する信頼もぐらつき始めている一方、ハンという男は自分の中で「弱く、愚かな」敵であり、乗り越えるべき障壁です。憎い敵だから殺したい、と単純なものではなくその段階を通り越しているのだと思います。監督のJ.J.エイブラムスが「この時のカイロはまだ迷っていたのだと思う」と述べている通り、まるで真っ二つに引き裂かれるような大きな苦しみの葛藤です。f:id:the-Writer:20181119152931j:plain結果、カイロは殺害に踏み切ります。「自分を裏切った父を殺す」……皮肉にもカイロが忌み嫌った父ハンが辿った道筋と全く同じであり、カイロは「ソロ」という血筋を証明したことにもなりました。後にスノークに指摘されますが、カイロはこの決断によって解放された、強くなったと感じたどころか大きな動揺を感じていました。あれだけ自分を苦しめてきた人物を自分の手で殺したのに、自分の情けない過去の象徴を終わらせたのに胸中は嵐の如く荒んでいる……。確かにこれは、カイロの暗黒面を推し進めました。しかし当然、ハンを父と慕っていたレイからの憎しみを受ける要因にもなります。f:id:the-Writer:20181119152550j:plainこの雪が降りしきる森の中での決戦なのですが、個人的に切ないものを感じていますね……今まで長々と書いてきた通り、カイロは何一つ自分のせいではなく、自分の力ではどうにもならなかった状況によって、暗黒面に堕ちたのだと思っています。堕ちたという表現すら適切ではなく、彼にとってはある種の救いとして暗黒面を選びました。しかし、レイやフィンらはこの事実を一切知りません。あたかも『エピソード7』初見時の観客と同じように。観客の方々は突然大声を出したり情緒不安定な言動を見ては「何アイツ…」と困惑したと思います。まだカイロの過去を知らないレイには、彼は「愛すべきはずの家族をその手で殺す」というおぞましい行為に手を染めた怪物としか見えていません。それどころか、執拗に自分を追ってくる一方で感情が読めず、恐ろしく穏やかな顔をしている非常に不気味な存在です。しかし、そうなっているからには何かしら理由があり、この無理解こそ意外と境遇が似ているレイとカイロの激突を引き起こしています。その無理解を悪いことだと断じているわけではないです。しかし似ている者同士がお互いを知らないことによって敵と思い込んでしまうのは、ある意味切なく興味深い流れであると思います。f:id:the-Writer:20181119160757j:plainこの戦いで浮き彫りになる通り、当のカイロはレイに対して興味というか、一種の執着を見せています。なぜならカイロはレイの過去を無理やり暴いた時に、自分と同じものを見たからでしょう。事情は不明ながら彼女にも親はおらず、ずっと親・家族を切望していた。それに伴って孤独の闇も彼女の中にはできていた……。それに加えて彼女のフォースの素養は強く、異性でもあります。カイロは、共感・恋愛感情・「そばにいてほしい」という切な思い・支配欲などがまぜこぜになった結果、レイに迫るような行動をとったのではないかと思います。尤も、フォースを覚醒させたレイに徹底的にボコボコに負かされてしまいますが……顔面に大きな傷も食らい、不本意ながら崇拝する祖父に近づきましたね。この後はハックス将軍に救出され、スノークが待つファースト・オーダーの母艦スプレマシーに連れていかれることとなります。

f:id:the-Writer:20181122094942j:plainこの謁見がカイロとスノークの袂を分かつ決定的な出来事となりました。スノークの容赦ない非難で見せた怒りと失望は、カイロを根幹から揺るがすほどだったのではないかと思います。そもそも自分を受け入れてくれると思ったスノークは自分を見限り、強みとして与えてもらった暗黒面の戦士としての人格も「所詮はマスクをかぶった子供」と揶揄されてしまいます。噴出する怒りは、ベイダーを継ぐ者の象徴たるマスクの衝動的な破壊につながりました。また、この怒りはいよいよスノークからの自立へと繋がったのだと思います。元々スノークは自分という人間ではなく、自分に備わった力だけがほしいだけなのは薄々と気づいていました。しかしスターキラー基地での敗北でその力すら不安定で見限られるのも近いのを悟り、隙を見て暗殺するという考えが芽生えたのでしょう。f:id:the-Writer:20181122112742j:plainレジスタンスの母艦を撃墜する任務に従事するカイロ・レン。祖父と父譲りの見事な腕前とフォースを使って淡々と母艦の要所要所をつぶし、ついにブリッジをボタン一つで破壊できるというところで母・レイアの存在を感じます。小説によれば、カイロがレイアから感じたのは悲しみ、そして愛情でした。カイロにボタンを押せませんでした。両親に対する慢性的な恨みはあるとはいえ、実際に母親とフォースで繋がりながら相対してみると殺す=完全に自立することができない……。ひたすら無関心を装っていた父に対して、やはり母にはまだ情が残っていることを伺わせます。前述の「レイアは実際に家にいる時はちゃんと母親としてふるまっていた」という推測の裏付けにならないでしょうか。f:id:the-Writer:20181122105659j:plain一方のスノークはフォースを使った交信で新しい罠をかけることにします。未だに居場所と意図がわからないルーク・スカイウォーカーですが、彼が恐らくいるだろう場所を記した地図はレジスタンスが入手することとなりました。レジスタンスの艦隊殲滅はハックス将軍に任せつつ、スカイウォーカーの元へと向かったであろうレイとカイロをフォースで繋げます。目論見通り、最初はいがみ合っていた二人は唐突なフォースによる交信も大して怪しまず、心を通わせていきます。2度目のフォース・ボンドの際、カイロはレイに一方的に蔑まれる中、一度だけそれを肯定します。「俺を怪物と呼んだな」「そうだとも」しかし、カイロの過去は彼本人の意思や力ではどうにもなりませんでした。いわば怪物にならざるをえなかったカイロ。それを誰も助けてもらえなかったカイロ。そう考えると、自ら自分が怪物だと認めに行くカイロが悲痛に思えないでしょうか。f:id:the-Writer:20181122105815j:plainそして3度目、4度目のフォース・ボンド。数々の出来事によって一元的な視点を捨てたレイはカイロと一人の人間として向き合います。この時、同じ両親が「いない」者同士、二人はかつてない程近づいていました。カイロはひたすら真摯にレイの話に耳を傾け、一切言葉をはさみません。それどころか「お前は孤独じゃない」とすら声をかけます。カイロは確かにゆがんだ成長をしたかもしれませんが、既に大きな苦しみを経験しているだけに、新たにそれに苦しむ人間がいればちゃんと気遣えるだけの心を持っているのです。ここで僕はルークが来た瞬間のカイロの反応が気になりました。映画の映像では確認できませんが、以下の舞台裏映像の2:31~がその場面に該当すると思われます。ルークが来た瞬間のカイロの顔が見られるのですが、その目は恐怖によって見開かれ、慌てて振り返っているように見えないでしょうか?心の中では見捨てられ、殺意を向けられた際の苦しみと恐怖をカイロは未だに記憶している……そう思います。

スノークを殺し、プレトリアン・ガードもレイと共に全滅させたカイロ(スノークを不意打ちで殺すのもまたしてもソロの血筋を感じさせます)。このままライトサイドに戻るのかと思いきや、カイロはまたしても予想外の動きに出ました。レイに銀河に新たな秩序をもたらすために手を組もうというのです。この動きが唐突に思えますが、やはりこれも彼の経験で裏付けられると思います。f:id:the-Writer:20181122112711j:plainカイロは両親に向き合ってもらえず、信頼して心を開こうとした師にあたる人物にはことごとく裏切られてきていました。自分の意思に関係なくただそういう状況に放り込まれ、苦しむことを強いられてきました。いうなれば彼は今までずっと理不尽に痛めつけられながら生きてきたとも言えます。今まで「虐げてきた」世界に復讐する。今こそ自分が立ち上がり、自分の力を知らしめて支配したい。もしかしたら自分と同じ状況の人間たちを自分の元へ集め、庇護しつつ仲間の軍団を作り上げたい……そんな願望もあったかもしれません。そんな中、自分と同じものを見出したのがレイでした。f:id:the-Writer:20181122110909j:plain同じ孤独の闇を抱える彼女こそ、自分を本当にわかってくれる。今度はきっと見捨てられる事は無いかもしれない。今自分のいる場所には好条件ばかりが揃っている。スノークは死んで強大な軍隊が今や自分の思うままになり、レジスタンスは壊滅状態、強敵のルークも失意のどん底です。そして目の前には共感から味方になってもらえるチャンスのあるレイ。そのような計算から「手を組もう」と手を差し出したのではないか、と思うのです。f:id:the-Writer:20181121225024p:plainなおその誘いの過程においてレイの家庭環境に言及しますが、その言い方に多少泥沼めいたものがあるのにも注意したいです。レイが両親を「誰でもなかった」と認めるのは良いです。しかしその後、カイロはこう続けます。「酒代のために娘を売った」「今は粗末な共同墓地で~」「お前はこの物語に居場所はない」「だが俺には違う」……レイを追い詰めるような言い方をしていないでしょうか?事実を曲解し、レイを孤独の谷間に突き落とした所で自分が手を差し伸べる……。つまりカイロはまだ暗黒面に身を置いており、むしろレイを引きずり込もうとしているのと同義なのではないかと思います。カイロはまだ変わっていないのです。f:id:the-Writer:20181122112505j:plain結果としてはレイは見事にその誘いを蹴り、改めてレジスタンスの一員として帰還します。ここでカイロはまたしても信頼した人物に見捨てられました。ハックス将軍を締め上げた際、ここに改めて暗黒面の戦士カイロ・レンが誕生しました。カイロは今までの遺恨から野望を膨らませたところ、より希望のある可能性は潰えてしまい、最高指導者レンとして道を突き進むほかなくなったのです。そして惑星クレイトでレジスタンスを追い詰めます。恐らくカイロはここで先ほど宇宙で死んだと思われた母・レイアの存在をフォースで感じ取り、その生存を確認したのだと思います。それも全てあと一歩で終わるところまで来ました。しかしここで、ルーク・スカイウォーカーが復活。ルークと対面した時、カイロはこう言いました。f:id:the-Writer:20181122100834j:plain「俺を赦しに来たか。俺の魂を救いに」

レイとのフォース・ボンドでも認めた通り、彼は自分のことを独自の正義のもとに戦う戦士というより、堕ちた怪物だと認識しているのです。ルークは明確に彼に危害を加えようとしたのでカイロには真っ当な復讐の動機があります。しかしそれを知ってなお、自分が悪いと認識している部分もあるのです。彼の生真面目さというか、本来の性格が垣間見えていると思います。f:id:the-Writer:20181122110115j:plain彼がこの決戦で相対したルークは6年前に自分を殺そうとした時と同じ姿(衣装は違いますが)、自分のアイデンティティーにしていた祖父のライトセーバーを持ってやってきました。不安定な情緒をもつカイロには、自分を最大限まで刺激してくるルークを殺すことしか考えられませんでした。結果としてこのルークが幻影であることを見抜けずにレジスタンスの逃走を許してしまいます。この最中、ルークに指摘されるのが彼と共にある人物のことです。ルーク、そして父・ハン。彼は父に対して明確な憎悪や敵意を感じる段階は通り越し、父を忌避して乗り越えたい障害と捉えているのではないか……と思います。しかしカイロは父を殺害することで、未だに父を真の意味で乗り越えられていない事を証明してしまいました。そしてルークには一切手も足も出ないまま、自分には未だ手が届かない場所へと行かれてしまいました。

 

フォースから見る彼の旅路

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ここでは、僕が考える『エピソード9』で彼が迎える結末について書いていこうと思いますね。この記事を書いている2018年11月現在、『エピソード9』がJ.J.エイブラムス監督の指揮下で本撮影が行われています。今こうしている間にもこのシークエル・トリロジー、SWサーガ9部作の完結編が撮影されており、カイロ・レンの迎える結末も現実のものになっているのかもしれないのです。

 『エピソード8』終了時点で、カイロ・レンは暗黒面により深く身を沈めることとなりました。ルークとスノークという光と闇の頂点がフォースの冥界に旅立ったため、レジスタンスに正式加盟したレイとファースト・オーダーの最高指導者であるカイロはそれぞれフォースの光と闇の頂点を担うことになります。

脱線気味になるのですが個人的に気になったのは、両親の真実を知ったレイとの4度目のフォース・ボンドの時です。あの時カイロはレイの前に姿を現したばかりか、第三者のルークからもその姿が見えました。これはのちにルークが使う一種のフォース・プロジェクションに思えますが、通常質量をもたない幻影のはずがレイとしっかり触れ合えているという点。映画的な演出として、レイとカイロは一時的に深い、精神的なレベルまで共鳴したことを視覚的に表しただけ……なのかもしれませんが、カイロの潜在能力を垣間見たように思えます。

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さて、過去記事にも書きましたが、『エピソード1』~『エピソード8』のサーガの流れからみえてくるのが、フォースの光と闇の攻防です。言い換えればフォースが光と闇の均衡を取り戻すための過程、とも言えます。始まりと終わりは共にあり、すべての現象は均衡という最も安定した状態を目指し、光と闇は互いがいなくては存在できません。プリクエル・トリロジーでは何千世代も存続したジェダイ・オーダーが銀河共和国と共に滅び、オリジナル・トリロジーでは1000年以上も生き永らえたシス・オーダーが銀河帝国と共に滅びました。この光と闇の攻防の全ては、宇宙全体を満たし、司るコズミック・フォースの働き(ジェダイに言わせる「フォースの意思」)によるものです。『エピソード9』・フォースの光と闇に関する考察は、下記の記事が非常に興味深いです。

全ては『エピソード9』で迎える結末のためだった……ではその結末とは何なのか?コアなSWファンの方が再三口にし、僕も実際『エピソード8』公開前の考察記事に書きましたが、光と闇の中間のフォースです。僕はニュートラル・フォースとも書きましたが、この状態なら光と闇は、互いに対立するのではなく共存していると考えられます。実際、カノン(正史)の情報でこれを裏付ける設定がいくつかあります。

マーベル・コミックスが刊行しているポーの映画外の活躍を描くスピンオフ・コミックの『スター・ウォーズ:ポー・ダメロン ブラックスコードロン』に続く第21話目(現在未邦訳)。『エピソード7』前のロア・サン・テッカが登場するのですが、彼が言うには「かつてフォースは光と闇は対立しておらず、結束していた」。『エピソード8』で本格的に登場した惑星オク=トーの最初のジェダイ寺院の下には、「強い光には強い闇」と言わんばかりに、暗黒面のフォースの集中する場所がありました。オク=トーのジェダイ寺院の洞穴にあったレリーフに描かれた「 第一ジェダイ」は、最初期のジェダイにしてフォースの光と闇のバランス状態にあるように見えます。

フォースの光と闇とはコズミック・フォースの視点からの語り口です。これをリビング・フォースの視点から言うと、「無私と利己」とされています。惑星ルエルに住む民の視点では、フォースにはそもそも光も闇もありません。彼らはフォースを「潮"タイド"」と呼び、それはその名の通りひたすら波の如く寄せては返す、変化し続けるものとして捉えています。この均衡した・調和した状態が本来のフォースの姿ならば、逆に今までのサーガで当たり前だったジェダイ/シスのオーダーという存在こそ異端でした。光と闇に二分し、それぞれに特化した存在は自然の摂理から外れている……。f:id:the-Writer:20181122204831j:plain『エピソード8』中盤、ファーストオーダー母艦スプレマシーのターボリフト内で、レイとカイロがこれからの互いの行く末を思って親密な会話をします。二人はその前に行ったフォース・ボンドで、ハッキリと互いの未来を見たと言います。二人とも、相手が自分と同じ側にいるという未来を見たというヴィジョンを見ました。未来とは常に絶え間なく揺れ動きます。ヴィジョンそのものがあてにならない事もありますが、今回は多少は当たっていたことになります。スノークを殺し、プレトリアン・ガード達も全滅させた後のつかの間の状況はまさに二人が観たそれでした。しかし本当にそれだけなのでしょうか?

カイロと違い、レイは明確にジェダイの道を進むことができますし、更にはこれまでの作品にはなかったジェダイ・オーダーの成功と失敗の両方を学ぶことができます。つまり光のみに特化するのでは失敗してしまうという事に気づき、フォースの真実に近づくことが予想されるのです。まさに上記の光と闇が共存する状態に、です。一方のカイロはシスになるつもりはなく(レイを勧誘する時にシス含む古いものは滅びるべきと言っているので)、師のスノークは死亡したのでレイと同じ境地に達するのは考えづらいです。つまり、レイとカイロがフォースにおいても真に同じ側にいるには、レイが改めてカイロに近づいていくという動きが必要になってきます。

 

カイロ・レンの結末は「救われる」事

f:id:the-Writer:20181123173346j:plain「救う」はシークエル・トリロジーを通して重要な要素であると思います。救われるのはもちろんカイロ・レンです。再三書いてきた通り、彼を怪物にしたのは彼の選択ではなく、環境でした。彼はそうならざるを得なかったのです。実は、僕はカイロ・レンがライトサイドに戻る必要はないと思っています。むしろダークサイドのままでも良いと思っているくらいです。レイとも最終的に恋仲になる必要もないと思っています。なら僕が考える彼が迎えるべき結末とは何なのか。

それは彼が自由の身となり、これから満足できる人生を送ることです。ハンとレイアの息子、ルークのパダワン、スノークの弟子……様々な立場を経験してきた彼ですが、そのどれか一つでも彼が心から望んだ立場だったのかは疑問に思っています。両親には向き合ってもらえず、ジェダイとは自分のフォースに沿った道筋とは少し違い、スノークの弟子に至ってはただの強力な武器としか見られていませんでした。先ほど「カイロ・レンという人格は、本来の自分を発揮できる器だった」のようなことを書きましたが、カイロ・レンという人格すらスノークの都合のいいように作られた人形だと思うのです。彼が真に必要とするものはもっと違うところにあると思います。

本当の自分を無条件に受け入れてくれ、愛してもらえる場所……ただそれだけです。本当に当たり前のような、普通のような幸せですがそもそも彼はその「普通」すら享受することができませんでした。レイへの誘いで「銀河を支配する」という野望を傍に置くと、残るのはこの純粋な願いなのです。逆にレイがカイロの誘いを蹴ったのは「銀河を支配する」という野望があったからであり、それがなければレイは(カイロの過去を知ったので)カイロを友達としてハグしたかもしれません。確かに彼はこれまで理不尽に苦しめられてきました。それによって怒りが生じるのも当然です。しかしその道筋はこれから変えることができると思っています。先ほど書いた通り、僕はカイロは暗黒面に身を置いたままでもいいと思いますが、それは彼が本当に満足し、心を満たされる場合のみです。

f:id:the-Writer:20181122214229j:plainスノークを殺し、ファースト・オーダーに君臨するというのは自分の意思で行ったことです。ある程度は満足もしているでしょう。しかし彼が現在所属しているファースト・オーダーに、彼を心から認め、受け入れてくれる人が一人でもいるでしょうか?そもそも彼は本当に最高指導者レンとして満足していられるのでしょうか?カイロ・レンというキャラクターのまさに複雑な箇所です。初代銀河皇帝にしてシス卿であるシーヴ・パルパティーンなら満足していたでしょう。彼はシスとしての正義以上に、元から人を虐げたり支配することに喜びを見出す人間です。しかし、カイロ・レンの中にまだ生きているベン・ソロは違います。カイロ・レンとして血塗られた悪行の数々に手を染めてきましたが、元々は繊細で心優しい少年だったはずです(これは勝手な妄想ですが……)。それが不幸な環境と不適切な指導によってゆがめられてしまっただけです。カイロの過去を考察した欄で引用したインタビューにはまだ続きがあります。

 自分を過去から切り離してしまえば、それは自分を騙すことになるし、自分が戻る場所を失うことにもなると思います。前進するには、レイがそうしているように、過去の上に道を築くしかないんです。」

出典:『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は決して過去を葬らない ― 監督が語るテーマへの思い

 彼の周りを見渡せば、彼を愛してくれる人物はいます。ハン、レイア、ルークの3人は間違いなく彼を愛しています。ハンはカイロが自らの手で殺してしまいましたが、レイアはひたむきにカイロの帰還を願っています。そしてルークもそうです。f:id:the-Writer:20181122215513j:plainf:id:the-Writer:20181122215437j:plain「彼は救えない」と一見ベンの救済を放棄しているように見えて、実は彼にしっかり添い遂げる覚悟を決めていました。自らの過ちを心から悔いていますし、ここがアナキンを完全に放棄した師のオビ=ワンと違う点でもあります。また、彼は父・ハンと一緒に常にベンと共にあると言いました。つまり、自分はベンに取り返しのつかないことをしてしまったため、もはや自分にその償いはかなわないと受け入れたうえで、あきらめたり見捨てたりせずにフォースと一体化してなお彼のことを見守るという誓いなのだと思います。

ベンが救われるには、やはり彼自身の変化も重要であると思います。 これもまた当たり前と言えばそうなんですが、周りからがカイロへ手を差し伸べるという過程は必須なのですが、彼がその手をつかまないといけません。カイロが心変わりをし、救いの手をつかめるようになるにはどうすればいいのか?具体的な展開は脚本を書いたJ.J.エイブラムスとクリス・テリオの頭の中ですが、レイア姫とランド・カルリジアンがカギを握るのではないかと思います。

f:id:the-Writer:20181123175819j:plainまずランドです。現在未邦訳のスピンオフ小説『Aftermath: Empire's End(原題)』によれば、ベンの誕生祝に黒いマントを贈ったそうです。『ハン・ソロ』スピンオフ小説の『ラスト・ショット』では、ベンはランド・カルリジアンに懐いているという設定が明らかになりました。両親が自宅に不在の中、常に魅力的な笑顔を浮かべながら時々訪れてくるランドにベンが好意的な感情を抱いているのは何ら不思議ではないと思います。気さくに接してくれるランドにベンが「ランドおじさん」と呼んで好いている一方、ランドはルークやレイアよりもずっと前からハンを知っていました。ある意味実の両親よりもベンの心に深く入り込んでいるランドなら、ベンを破滅の道から引き戻すのに重要な役割を果たせると思います。

f:id:the-Writer:20181123182316j:plainやはり重要なのはカイロ・レンの中に残る母への情であり、それについては『エピソード8』劇中の分析で書きました。その情が『エピソード9』にて中心的な役割を担うのは、これまでの製作関係者の発言から裏が取れています。

ルーカスフィルム社長のキャスリーン・ケネディによれば、『エピソード8』主要撮影終了時、レイア姫を演じるキャリー・フィッシャーは「『エピソード7』ではハリソン(=ハン)、『エピソード8』ではマーク(=ルーク)が中心だったから次は私が中心になるべき」と言っていたそうです。キャリーは『エピソード9』はレイアの映画になることを希望しており、実際そうなるはずだったとケネディは認めました。

しかし残念なことに現地時間2016年12月27日に、キャリー・フィッシャーは亡くなられました。その時点で(前任監督による)『エピソード9』脚本は完成していましたが、必然的に1.レイアを中心に据えないよう脚本のリライト 2.脚本に沿ってキャリーの映像的な「蘇生」のどちらかになります。結果、監督はJ.J.エイブラムスに、脚本はエイブラムスとテリオになったことで『エピソード9』はレイア姫をしっかりと扱う方針になりました。キャリー・フィッシャーは『エピソード7』,『エピソード8』で撮影した映像を使うことで、『エピソード9』に「出演」するのです。

(↑ビリー・ディー・ウィリアムズ演じるランド・カルリジアンの再登場、マーク・ハミルの帰還も記載されていました)

尤も、キャリーの映像や発声はどの程度加工されるのかは不明ですが……。レイアが『エピソード9』の中心的な役割に重用されるという状況証拠的に、カイロ・レンとの間に素晴らしいドラマが生まれるのは間違いないと思われます。カイロが両親を「赦す」のかはわかりませんが、彼にはこの泥沼から抜け出してほしいです。今まで他人が自分の人生の主導権で大きな割合を占めていました。しかし彼には自分が所属できる場所があり、自分を愛してくれる人がいる、そんな人生を送る権利があると思います。『エピソード9』では生きて、あらゆるしがらみを捨ててようやく掴んだ自由な人生を送ってもらいたいです。

 

「家族」というものに対する個人的な考え

 このカイロ・レンというキャラクターの考察にあたって様々なものが見えました。ジョージ・ルーカスキャリー・フィッシャーが度々述べている通りSWとは「家族の物語」であり、それはナンバリングサーガには属さないアンソロジーである「A Star Wars Story」でも、色濃く物語の筋をなしています。シークエル・トリロジーでは、この家族(特に親子)というテーマに更に一歩踏み込んだ問題提起をしてくれたと思います。

僕がそこから見出したのは、「子どもの権利」「親の責任」という表裏一体の問題です。両親がいて子供がいる……いわゆる普通とされている家庭の形です。人間というのは生まれた時点で相当理不尽なゲームに参加させられていると思います。なぜなら人はいつ、どこに生まれたいか、そもそも生まれたいかというのを選べないからなのですよ。更に生まれてからは生物的な本能によって、生きるのをやめることすら困難です。両親に当たる男性と女性の明確に意思に基づいた行為によって新しい命が誕生します。その新しい命=子どもからすれば、人生という長く多くの困難が存在する活動に強制参加させられるわけです。よって、両親には子供に対する絶対的な責任が生じると思うのです。それは子どもの人権と尊厳を守り、常に最大限の努力を以ってその幸せを達成する事です。

そもそも家族とは何か、と考えてみました。僕の考えでは、家族とは人間が作りうる最高の信頼関係です。そこには、あらゆる損得勘定や欲望を超えた強い絆があります。なぜなら、家族に属する人間たちは互いを心の底から愛しているからです。ここまで気が合う仲間なのだから、常に一緒にいたい。そういう気持ちから家族は作られるべきです。よって家族とは血縁関係が先に来るべきものではなと思います。「家族だから」という言葉は良いことにも悪いことにも使われます。もし血縁関係が優先されるなら、そこには優劣関係が生まれる危険性があります。そして前述のとおり、子供からすれば気づけばその家族に生まれており、既にその一員に組み込まれています。それが子供を人として扱わない悪しき家族なら、その子供は非常に不利な状況にいます。僕は思います。子どもには自分らしく、自由に生きる権利があります。自分の人権や尊厳を尊重してくれない両親からは、逃げるべきです。血がつながっているから、という理由だけの家族は必要ありません。家族は一緒にいたいから家族なんです。自分を理不尽に虐げてくる実親よりも、自分を無条件に愛してくれる他人こそが、本当の親です。家族とは血縁ではなく、実践の結果なのだと思います。 

 

最後に

そもそもなぜトリロジーの中心を担う・世界的大ヒットシリーズ・ナンバリングサーガ完結編のヴィランがカイロ・レンなのでしょうか?今はレジェンズ(非正史)に分類された拡張世界(EU)は、『エピソード1』のはるか昔から『エピソード6』の「その後」の話まで、膨大な数の魅力的な設定が存在します。マーベル・スタジオが自社の原作コミックの設定を適宜汲み取り、映画独自の設定と組み合わせる事でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)という世界観を築いているように、SWもそれができたと思います。『エピソード7』の新たなるヴィランは、・復活した古代最強のシス・帝国が密かに培養していたルークのクローン・流浪の強力なダーク・ジェダイなど……それっぽい設定はいくつか考えられます。しかし、「親」に見捨てられた子供というカイロ・レンこそがその役割を担いました。f:id:the-Writer:20181125124952j:plainなぜなら、家族や親子間に存在する歪みというのは世界中に存在する普遍的な問題だからなのだと思います。更に、SWとは基本的に若い世代を対象に作られています。すなわち作品が伝えるメッセージとは特にその若い世代に向けられたものです。大人になると、自分が持つ意見を変えるのは非常に難しいです。しかしまだ人格形成の途中であり、柔軟な思考を持つ若者ならその重要なメッセージを受け取ってくれます。「子供を持つというのは、軽々しく扱っていい行為ではない」「一度子供を持ったからには、自分の全てをかけてまで愛さなければならない」といった辺りでしょうか。この問題提起から、家族を扱った様々な議論が発展すると思います。 

ここに来て今更ではあるのですが、アダム・ドライバーは非常に素晴らしい演技でこのカイロ・レンという繊細で不安定な人物を演じていると思います。一見するとハリソン・フォードキャリー・フィッシャーに顔が似ているわけではないと思いますが、以前出した「SWのキャラクターとはその顔ではなく、内面が本質」という結論通り、こちらの予想を凌駕する数々の演技で、カイロの生々しさを見ている観客に伝えてきます。アダム・ドライバーのキャスティングは見事としか言えませんね……。マスクをかぶっている時はボイスチェンジャーのせいで祖父の「良い声」とは違うモゴモゴ声なので、何を考えているのか全く読めません。しかし一旦それを取ってアダム・ドライバーの顔に注目すると、その表情筋一つ一つが細やかで荒々しい感情の機微を伝えてきます。

僕が書いたベンの幼少期はマイナスな事ばかりになってしまいましたが、ベンの人生には100%嫌な事しか起こらなかったというわけではないと思います。やはり家族3人で笑った楽しい思い出もあるはずです。しかし結果として彼は大きな苦痛を理不尽に与えられ、ゆがんだ成長をしてしまいました。彼にはぜひとも救われてほしい、そう切に思います。僕は彼は両親のことを許さなければならない……とは思いません。受けた痛み、それを与えてきた人物を許すかどうかはあくまで被害者にかかっているからです。被害者と違う環境で育ち、違う考えを持つ外野が口をはさんで良い問題ではないと思います。それに赦さなくても、その感情と共存したまま生きていく事はできると思うんですね。f:id:the-Writer:20181127101414j:plainしかし、彼は両親に対する情がかすかに残っています。つまり両親のことが好きで、その愛を求めるベン・ソロがまだ生きているからです。カイロは改めて「ソロ」というアイデンティティーを受け入れるのか。レイやスカイウォーカーとはどう決着をつけるのか。彼はどこに向かっていくのか。J.J.エイブラムスとローレンス・カスダンがこのキャラクターを生み出したのは、家族の問題が世界中に存在する普遍的な問題だからであり、それに対する希望を与えたいからだと思います。ならば、『エピソード9』で彼は救われなければいけません。彼の救済を、そして今家族に悩むすべての人たちへの希望を、僕は待っています。『エピソード9』は来年12月20日に全米公開です。

 

 

 

 

 

f:id:the-Writer:20181127110516p:plain願わくば、いつか彼がこんな笑顔を自然に顔に出せる日が来ることを……(『エピソード8』映像特典より)